高次脳機能障害の原因の約8割は脳卒中です。脳卒中を発症した方が退院時に、脳血管性認知症と診断されるか、高次脳機能障害と言われるかで、その先の進み方が違ってくるという話は以前にもお伝えしていると思います。脳卒中の方がすべて高次脳機能障害になるわけではありませんが、発症時に意識障害が重度だった場合は、なんらかの高次脳機能障害は必発すると言われています。また脳卒中を起こした人の再発率は、年間5~10%程度とかなり高いそうです。生活習慣病から起こることが多い脳梗塞や脳出血は、再発を繰り返せば、脳血管性認知症に移行する場合もあると言います。
ところで介護保険制度を利用できるのは、65歳以上(第1号被保険者)と特定疾病の40歳以上(第2被保険者)です。16あるこの特定疾病の中に「脳血管疾患」が入っています。そこで40歳~64歳の脳卒中の方は、介護保険のサービスが受けられます。一概には言えませんが、高次脳機能障害を支えるサービスを考えると、介護保険に該当するものがないものがあります。障害福祉サービス固有のものとして、行動援護、自立訓練(生活訓練)、就労移行支援、就労継続支援等です。介護保険が優先ではありますが、介護保険サービスに相当するものがない場合は、障害者総合支援法によるサービスを受けることができるとされています。
しかし現実はなかなか思うように行きません。介護保険の対象年齢前に、障害のサービスを受けていた方は、介護保険との併用を申請しやすいのですが、退院時に「脳血管性認知症」と言われ、最初から介護保険利用になってしまった方は、この介護保険優先の原則があるため、なかなか福祉サービスの併用が難しいのです。障害者総合福祉法のサービスと介護保険のサービスを選択・併用できるようになることが理想です。
かたや認知症の増大は国の対策として急務です。そして認知症と高次脳機能障害との定義は難しく、認知機能の低下、という意味では似ています。まして認知症と言われる中に「脳血管性認知症」の方々がいるのですから、国のモデル事業、支援普及事業で培ってきた支援のノウハウは、認知症の方々にも必ず生かせると思います。「80歳の認知症の人に就労の話は無理でしょう。我々がやってきた支援は若い人が対象です。」と中島八十一氏(国立障害者リハビリテーションセンター・高次脳機能障害情報・支援センター長)はおっしゃったのですが、なにも80歳の方に就労支援を望んでいるわけではありません。対象と言うその若い人たちもすぐに年をとっていきます。支援の蓄積も相互に生かせるようにしたいものです。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子