こーじ通信
こーじ通信 No.11~No.15(こーじ通信のご案内)
No.15 新年度の活動について
5月19日に総会と講演会を行い、新しい年度を迎えました。新しい障害、見えない障害と言われて医療と福祉の谷間にあった「高次脳機能障害」の問題は、今までの本会や、関係団体のいろいろの働きかけによって、この2、3年少しずつではありますが、ようやく動き出した感があります。平成11年度の東京都が行った実態調査から平成12年度はリハビリテーション研究会につながり、その結果、医科向けのマニュアルと一般向けのマニュアルができました。そして次の段階としての動きは作業所などとリンクして、派遣・地域リハビリテーションを実施計画中と聞いています。
一方、厚生労働省も平成13年度から高次脳機能障害支援モデル事業(3年計画)を開始しました。この流れは、私たち介護をしている家族に希望を与えてくれました。この事業も今年は2年目です。しかし昨年度のモデル事業の活動報告を見てみると、取り扱いになっている症例の合計は、平成14年4月現在、10都道府県併せて160症例ぐらいと聞いています。1拠点平均16名ぐらいで、本当に期待できる結果が出るだろうかという不安があります。中には意識的に若者に多い交通事故による脳外傷を中心に症例を挙げている病院もあります。将来のことを考えると若者の抱える問題は大きなものがあり、国としてもその対策を考えることはテーマの一つだとは思います。が、東京都の実態調査でも明らかになったように、高次脳機能障害者の大部分は脳卒中を原因として、社会の中堅として家庭の支えであった40~50代の人たちであります。 医学的な研究は、現段階でどのぐらい進められるか判りませんが、福祉的な面からの支援は、今までの福祉政策の中で如何に考えるか、方法はないかの問題を考慮すべきだと思われます。極論的に提案できれば、東京都のマニュアルは現に行われている診断技法、リハビリの指針の大きなひとつとして取り上げてよい問題です。
さらに平成15年度の医療改定による医療点数の影響が、高次脳機能障害者に前向きになっていないというような国の事業もあり、今年はこれらの問題に積極的に関係機関に対して要望、提言して行きたいと考えます。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.14 家族の会は社会に訴える
家族の会が結成されて、足掛け4年(正確には3年9ヶ月)が過ぎました。
会員のみなさんとは勉強会、交流会などでしか顔を合わせる機会がないために、会を運営する世話人として、会員一人一人の実情なり、ご要望などに対して、充分な活動が出来ただろうかといつも考えています。
私たちの会は、近年の救命救急医学の進歩によって命を救われ、高次脳機能障害と呼ばれている後遺症を抱え、第2の人生を送る状況に陥った障害者と家族、それを支援する人たちの集まりです。今後も生活習慣病や交通事故、怪我などによる脳損傷が増加し、そして当然ながら、救命後の医学治療の技術が進まない限り、この障害はますます多くの問題を提起することが考えられるでしょう。私たちはこの高次脳機能障害者を社会が理解し、受け入れていくように、そして障害福祉の施策に加えられるよう訴えていくために活動しています。
高次脳機能障害の原因は、脳卒中(脳血管障害)、交通事故、転倒、転落等による脳外傷、脳炎、脳症によるものがあります。この脳の損傷は、目に見えにくい障害であり、損傷を受けた脳の場所により、症状も様々です。言語障害や肢体に麻痺が出た場合には、身体障害者として認定され、手帳が取れますが、外見上どこも悪くないように見える場合は、現在、施行されている障害関係の法律は障害者と認められていません。このことは会員や支援されている方々は常識としてご存じのことでしょう。
昨年から厚生労働省によって高次脳機能障害支援モデル事業が行われていますが、この制度が実際に実行されるのは2年後の平成16年になる訳です。すでに長い年月を一日24時間、介護に費やしている家族の疲労は想像するに余りあります。行政が実質的に現状を把握しても、100点満点施策が出来ないことは理解しています。現在、当事者や家族が置かれている状況を考えれば、厚生労働省は現在施行されている福祉政策レールに乗車出来る途中下車駅を、簡易構築であっても造るべきではないでしょうか。是非造ってください。これは関係者の強い希望であり、待ち望んでいる福祉になると思われます。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.13 平成14年度の高次脳機能障害者のこと
3月の声を聞いて、花の頼りもちらほらと聞こえてきます。年度の変わり目でもあり、ようやく高次脳機能障害という後遺症が、その対策研究のために始まった厚生労働省によるモデル事業の2年目になる年でもあります。
どのような経過で今後推移していくのか方向性は分かりませんが、リハビリテーションという医学技術の問題は別として、この事業で行われる福祉部分の現実について早急な目論見が本年度中に出さなければ、現在進められている医療改定、福祉政策の見直しの方向に間に合わないのではないかと懸念されます。
私達、障害者を持つ家族が障害者の社会復帰を願って、障害者福祉のレールに乗せればと考えたときに目の前にあった壁は、「高次脳機能障害は現行の障害者法には該当しない」という各自治体の渉外担当窓口の対応でした。あれから5年が経過して、ようやく国の対応が上記の高次脳機能障害者支援モデル事業になったのですが、私達が期待し、待ちわびている在宅療養者のための方策について考えられているのでしょうか。
聞くところによれば、在宅療養の遷延性意識障害者のケミカルショート・スティなど、新規の療養体制を設けるなどの試みも行われるとも聞いています。また横浜市が一人住まいの障害者を公費を持って支える条例を定めるなど障害者に対する新しい取り組みもみられ、少しでも前進していく息吹は感じられています。
高次脳機能障害の診断技法についても、医学的に問題があるかも知れませんが、現実的に考えた場合、失認、失行などいくつかの障害の現れによって、福祉政策は可能ではないかとも考えられます。例えば、14年度から始まる障害者支援センター事業の中でも、高次脳機能障害者を組み込んで、モデル事業と関連させることも可能になり、対策も早まるのでは、と淡い期待を新年度の医療と福祉の改定にかけてみたいと思います。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.12 障害を持つということ
「三寒四温」「暑さ寒さも彼岸まで」との諺の通り、季節は自然に移り変わって、木々も次第に色づき始めています。実りの五穀は、生命維持の役目の担い手となっています。
人間は、この移ろいやすい日々を心と皮膚の機能によって感じながら、暑いときには秋を、寒いときには春をまつことによって、それぞれの生活にアクセントをつけて生きています。私は二人の子どもが高次脳機能障害という後遺症を持って生活している後ろ姿を見て、この時の流れを、普通の人とは違った情感で生活しているのだろうと思いながら、介護するときが多くなりました。
家族の会の集まりは、現状で良いのか。3年余りの時間をかけて、高次脳機能障害者は何が報われたのか。国政の中に組み込まれた支援モデル事業の評価は、平成15年度予算の中に、どのような形で組み入れられるか。その基礎となる資料は、平成13年度と14年7月までに集められた、私たちから見れば少数のデータであり、その中から私たちが期待するような高次脳機能障害に対する診断・社会復帰支援・在宅支援などの手法が本当に見いだせるのだろうか。時の流れの中でこんな不安を感じるのは私だけでしょうか。
毎日毎日が介護の連続である家族は、周囲の誤解、医療・福祉の制度や体制の不備の中で必死の思いで現状の社会復帰の途を手探りしているのです。リハビリテーションにしても、入院から通院へと状況の変化があり、その挙げ句が「うちではこれ以上はできません」との話で治療を打ち切られてしまう。そしていわゆる「在宅療養」になり、作業所などを訪ねまわり、幸運な人は通所し、多少の問題点は妥協しているのが実態ではないでしょうか。乱暴な言い方かもしれませんが、私たちから見れば、医師から「これ以上は・・・」と言われたときが、細かい問題はあるにしろ、障害の実態が確定・診断されたときのように思われます。
高次脳機能障害支援モデル事業が掲げる診断技法が確立するまでにはまだまだ時間がかかります。現実にある障害の診断が不可能なために対策ができないというマイナスの思考をプラスに変えて、可能な限りの暫定対処をすることもモデル事業に参加していない多くの自治体が高次脳機能障害に目を向ける可能性の一つになるのではない
でしょうか。
国の賢明なな配慮を期待します。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.11 再び高次脳機能障害者支援モデル事業について
高次脳機能障害支援モデル事業は、今年の5月21日に事前打ち合わせ会議があり6月12日、7月28日に各拠点病院(10道府県)の連絡協議会がもたれ、ようやく動き始めました。この事業の拠点病院もそれぞれの特徴を出されたことと思います。
本事業は、厚生労働省社会・援護局障害保健部長名で出された、「文書・障発第13号」により実施されるものです。本文の頭書の「近年、交通事故等による外傷性脳損傷などにより、失語、記憶障害、判断、遂行障害、認知障害など後遺障害を呈するいわゆる高次脳機能障害のある方々は・・・云々」を素直に読むと、脳外傷者の数倍もいる脳疾患を原因とする高次脳機能障害は対象にならないのかと考えられ、また実際報道関係者の中にも高次脳機能障害は頭部外傷だけだと思っている人もいます。これから各拠点病院が行う症例収集は将来的な施策の基礎となりますが、その収集方
法によっては、年齢や社会経験を考慮の要素とする社会復帰への支援などに、充分反映できるのか疑問が残ります。本事業の中心にいる人達は、これについて「充分理解しているから問題はない」と言っています。果たしてそうだろうか?元々この事業は原因はなんであれ、最初に高次脳機能障害ありきからスタートしたはずです。個々の障害者はそれぞれに特異性があり、複合した障害があります。リハビリ、社会復帰の支援プログラムに含まれるべき最大の問題は、年齢と障害との組み合わせで考慮されることではないかと考えます。なぜ今、高次脳機能障害を頭部外傷が主たる原因のよ
うに表現しなければならないのでしょうか。障害・疾病対策の本源の厚生労働省が社会に障害の正しい情報を伝え、社会的理解関心を広く求めるならば、本質を表現するときに充分な配慮があってしかるべきで、関係者のみの理解で満足すべきではありません。
この障害の原因が誤解されるような表現、姿勢が障害と向かい合う当事者への対策が明確にならない原因の一つとも考えられます。なぜ厚生労働省に代わって、われわれ障害者・当事者がマスコミその他に説明しなければならないのでしょうか。
またこの事業の拠点病院のない地域にも介護に明け暮れる障害者と家族がいて、この瞬間にも支援対策を待っている現状があることを真剣に考えるべきです。本モデル事業に参加しない地域においても、試行錯誤があったとしても、少なくとも高次脳機能障害に関心を持つ公立病院、大学病院、また医師、当事者などが積極的な提言・関わりを可能にする運営が望ましいと考えます。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄