こーじ通信
こーじ通信 No.16~No.20(こーじ通信のご案内)
No.20 曇り空の下で
毎年のことながら、6月の空は明るい太陽を見ることが少ない梅雨空に覆われ、不快指数の高い日が続きます。
5月31日は総会を兼ねて、前回のシンポジウムで発言のあった仙台の高次脳機能障害者を支援する会の事務局長の大坂さんにその活動のお話をお願いしました。
新年度の総会として、平成14年度の活動・会計をご報告し、15年度の目標をお話ししました。本来、総会の形としては正常ではありませんが、現在の会の運営上やむを得ないことを御寛怒いただきますようお願い致します。なお会の運営について、現在の世話人会に新風を入れるため、新しい方がたのご参加をお待ちしています。省みると5年前にこの会を立ち上げる時は、まだ国内には高次脳機能障害者の患者・家族の会はありませんでした。名古屋・神奈川の二つのリハビリセンターを中心とした「脳外傷の家族の会」と大阪に「頭部外傷や病気による後遺症を持つ若者と家族の会」がそれぞれ地域的に、高次脳機能障害について活動していた時期です。神奈川の脳外傷友の会と神奈川リハビリセンターによるシンポジウムが行われた直後に私たちの高次脳機能障害者と家族の会が立ち上がり、高次脳機能障害という後遺症を名称とし、障害の実態の社会的認知を目指して、手作りの活動を始めました。その結果が来年度の高次脳機能障害政策にどのように反映されるか、重大な関心をお持ちください。
国のモデル事業は高次脳機能障害を持つ人が、これからの社会で生活していくにはどのように、また何が必要か、この問題に道をつけるためのものであった筈です。この中でリハビリを含めた医療面での研究は勿論ですが、現在は在宅のまま家族に大きい負担を強いて介護されている障害者に対する社会福祉政策は、、社会学的な見地を新たに加えることの必然性を生んでいると考えます。モデル事業が今年度に終わりであっても現状の高次脳機能障害者の多くが家族の柱である状況を思い浮かべると、施策として拙速であり、
試行錯誤があっても福祉政策が最優先であるべきと、敢えて福祉を命題として新しい事業を再提案すると同時に、直接窓口の各市区町村単位の行政部門への働きかけも重要となります。会員の皆さんの介護生活を続けながらの行動は大変ですが、行政に障害者の持つ問題を提起していきたいと思います。
来るべき太陽が一日も早く見られるよう、青空を待ち続ける家族の一員として!!
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.19 平成15年度の始まり
本会も立ち上げてから5年を経過して、今年の3月9日に予てから考えていた高次脳機能障害者と家族の会が当事者自身の計画でシンポジウムを開きました。家族の介護をしながらの世話人の皆さんには、会の運営に関わっていただいて、大変なご苦労をおかけしました。このシンポジウムにご参加いただいた方々には、いかがな評価をいただくかわかりませんが、高次脳機能障害者を介護することの難しさ、厳しさを社会的に訴える方法の困難さを教えられたような気がしています。
今まで、東京都の実態調査、国の支援モデル事業などとの関連で、この障害の医療福祉について、光が見えた感じを持っていましたが、高次脳機能障害者には依然として具体的には響いてこないのが現状であります。今年は支援モデル事業の最終の年、3年目が始まる年でもありますが、4月10日に過去2年間の報告書が発表になりました。しかし私の知る範囲でも私たちが望んでいる福祉政策や診療体制とはほど遠い論議、研究に終始しているとしか思えません。何故なのか。参加している道府県の中核病院やその周囲の医療機関が考えている支援と、障害者および介護にあたる家族が求める支援の内容に大きな差があるのが原因ではないかと思われます。障害者の認定のための診断技法など専門分野における議論の必要性を否定するものではありませんが、目の前にいる障害者のための最小限の福祉的支援を後にしてよい支援モデル事業はありえないし、このままでは単なる医学的研究のみで、残された最終年度が始まるような危機感を持たざるを得ません。
支援モデル事業に期待するものは、障害者としては最低限、現行の障害者政策の社会的支援を受けながら、そこで適合できない部分や対処方法を模索するようなモデル事業の進め方でした。
私たちはシンポジウムの中で感じた支援の試みもひとつのテーマであるし、その他にも新しい手法を探して社会に向かって、またモデル事業関連の自治体等に広く訴えていきたいと思います。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.18 平成15年という年を迎えて
今年は私たちが、高次脳機能障害者を介護しながら、医療・福祉の光を求めて家族の会を立ち上げて5年を数えます。その間、多くの人の後押しと会員の皆さんの声で、東京都による高次脳機能障害実態調査、リハビリテーション研究会などが行われ、厚生労働省は、国として高次脳機能障害の施策を考えるために、高次脳機能障害者支援モデル事業を3年間の計画で実施しています。
私たちは機会がある度に、また機会を作って、現行の障害者のための社会福祉の施策の対象にはならないために、多くの障害者が苦しんでいる実態を国や各自治体に訴え続けています。しかし支援モデル事業の継続中のため、具体的な対策としては事業のとりまとめなどが本年2月か3月になるとの状況で、相変わらず家族の犠牲を強いられています。一方昨年12月に障害者基本計画(10年計画)が閣議決定され、その中に初めて、生活支援の項目で各種障害への対応として「高次脳機能障害」という言葉が入りました。しかしこれだけで高次脳障害者にとっては、解決とならないことは自明のことです。この計画は実施プランとして前半、後半各5年に分けて行われることになると聞いています。
そういう中で私たちは、現行の医療・福祉では対応されていない部分をどのように考え、どのようにプランニングされるのかを具体的にすることが必要であると訴えていきたいと思います。本会は今年3月にシンポジウムを開催します。そこで多数の関係者の知恵と発想を集めて、一日も早く高次脳機能障害者の社会参加が可能な障害者対策を要望していこうと考えます。念頭に際して、家族の会の皆さん、支援してくださる方々のご協力をお願いします。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.17 いま改めて障害者基本法を考える
「社会福祉」とは何だろうかと考えるとき、まず第一に、車椅子、義肢、義手、杖などを使う障害を持った人たちや、社会的弱者と見られる人たちのために、善意に満たされた優しい手のようで柔らかな、漠然としたものが頭に浮かびます。しかし自分が、高次脳機能障害者という障害を持つ二人の倅を持つことになって、彼らの今後と親亡き後の社会との関わり、この幻のような「福祉」という制度に頼らざるを得ない現実に直面しました。それがどのようなものかを想像するのが、不安でならないのは果たして私だけでしょうか。
障害者基本法にある障害の規定は「身体、知的または精神障害があるため、長期の日常生活または、社会生活に相当な制限を受ける者」とあります。このため障害認定は医師の診断が必要なものになります。ここが「福祉」という列車の出発駅であり、始発でもあるわけです。
「高次脳機能障害」という言葉で表される障害は、医学的には統一見解がないので今まで「障害者ではない」と福祉政策の谷間に置かれていました。つまり「高次脳機能障害者」は出発駅にも入れないのです。漸くその社会がこの問題をどうすべきかを考えて動き始めたのが、いま進められているモデル事業です。しかしこの事業の結果が、直ちに医学的な研究、福祉制度の発展に繋がるかといえば、そうはならないでしょう。
障害認定の基準を医学的条件にのみに限らず、基本法の内容を「社会との関わりの能力を障害認定の基準とする」という解釈にすれば、もっと現実味を伴ったものになるのではないでしょうか。少なくとも、「高次脳機能障害者」も始発駅に入場し、どの列車に乗るかを待つことができることになります。そうすれば医療の手を離れて、社会的な意味でのリハビリを必要としている障害者が、障害者として認められずに、家族介護者の犠牲によって日常生活をしている現況が改善されるでしょう。そして障害者に対する政策の裾野が広がり、新たにどの路線の選択をするかのプログラムを創る作業が必要になるはずだと思います。
あえて、モデル事業の取り組みに期待します。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.16 障害者問題に係って
日本における多くの中途障害者が要望する社会復帰とは、理想的には障害を持つ前の状況に戻り、日常生活ができることだと考えられます。そのために、障害者を取り巻く環境に対して、介護にあたる人たちが関心を持つのも当然なことであります。家族や介護にあたる者は、障害当事者のコミュニケーションを主体にする当事者の会や家族も一緒に障害を勉強し、社会福祉や社会資源の活用に目を向けて social actionを基調に活動する会や、原因を重視する会など異なった活動をそれぞれで行ってきています。今、高次脳機能障害に対する行政の意識の変化は私たちがこの会を立ち上げた頃を考えれば、感慨深いものがあります。
過去を振り返ると、障害者の問題は何故こんなにいろいろなハードルがあるかと思い知らされて来た5年でした。現行の障害者基本法に基づく身体、精神、知的障害の障害認定に含まれない障害(見えない障害、高次脳機能障害)の場合は、医療面でも福祉面でも障害であることを判って来ていながら、障害についてのアドバイスのみで終始しているのが実態であります。元来障害者基本法では、「長期にわたり日常生活または社会生活を送るために相当な制限を受ける者」を障害者として定義づけ、国や地方公共団体は、障害者のいろいろな社会活動への参加のための方策をとることが求められています。にもかかわらず、各種の方策がなされていない、なされずに見過ごされてきたと改めて思い返されます。高次脳機能障害者モデル支援事業そのものを知らない行政、障害者、介護者、マスコミ関係者も多くいます。問題提起について一つの団体が声を上げるより、それぞれの立場で各行政地方自治体や市区町村への働きかけをし、福祉の受け皿の確保を目指してゆくべき状況だと考えています。
「高次脳機能障害」という言葉は医療関係のなかで正式には認知されていませんが東京都で出版したマニュアルを始めリハビリテーション関連の参考書はたくさんあります。ところが、言葉としては、高次脳機能障害者が利用できないものばかりであることが残念です。
高次脳機能障害における医療と福祉の連携の必要性は充分に理解できますが、特に福祉の問題は専門的な分野で研究すべきではないかと最近私は思っています。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄