こーじ通信
こーじ通信 No.26~No.30(こーじ通信のご案内)
No.30 ポストモデル事業と障害者自立支援法
平成13年度から始められた高次脳機能障害者モデル事業も今年が最終年です。このモデル事業に参加している12ヶ所の道府県又は政令指定都市では、拠点病院が支援拠点機関となり。支援センター、支援コーディネーターが中心となって活動する支援体制の確立を進めています。モデル事業では、「地域の関係機関との連携を図り、各種の制度を活用したサービス提供を試行的に行い、支援体制の確立を図る。」という目標が掲げられています。さらにその成果を全国展開するための新たな事業を平成18年度から実施できるようにすることが課題でしょう。私達の実際の生活現場を考えると、ようやく「高次脳機能障害」という言葉が知られるようになってきましたが、医療の現場でもまだまだ理解されていないのが現状です。東京都の医師会なども高次脳機能障害の研修会を始めましたが、まず医療機関が障害認定を確実に行えるようにしなければなりません。高次脳機能障害のリハビリに関しては、生活の場で時間をかけて行うことが大事です。都道府県ごとに支援センターが1ヶ所、支援コーディネーター1人というのでは人材が到底足りず、ごく一部の人しか利用できません。支援拠点を少しでも増やし、この障害の周知徹底を図り、当事者や家族の相談窓口やリハビリの体制を充実させこれらを担う人材を育成し、研修していくには、各自治体任せにせず、国レベルでも予算をきちんと確保しての施策が求められています。
今国会では18年度実施に向け、「障害者自立支援法」が審議されています。この法案ではサービス提供主体を市町村に一元化し、障害の種類(身体障害、知的障害、精神障害)にかかわらず、障害者の自立支援を目的とした共通の福祉サービスは共通の制度により提供することが目指されています。また増大する福祉サービス等の費用を皆で負担し、支え合うために、応益負担となってきそうです。これまで高次脳機能障害者で身体障害のない方の場合、どんなに障害が重くても身体障害者手帳の交付は難しく、わずかではありますが器質的精神障害として、精神科で精神保健福祉手帳の交付認定を受けてきました。今度の「障害者自立支援法」は障害の枠組みと等級制度は厳然として前提とされており、その枠の中での制度なのです。手帳がなければ支援は受けられず、再び制度の谷間に置き去りにされてしまう恐れがあります。また手帳が取れたとしても「共通した福祉サービス」の現場で、「高次脳機能障害」についての理解と支援体制が出来ていなければ、この法律は絵に描いた餅でしかないのです。
当会では、私達の願いを18年度予算に組み込むためにここ数ヶ月が重要な時期と思い、引き続き、国や都、各自治体に対して働きかけていきます。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子
No.29 会員の皆様へ
去る2月26日、当会の代表であった鈴木照雄氏が心筋梗塞で急逝しました。2月19日の交流会には鈴木氏も参加しており、そこで会っていた世話人たちはあまりの急な知らせに呆然としました。もともと心臓が悪く、手術も何度か受けけていたのでご本人も体調には気をつけていましたし、私たち世話人も「体を大事にして」と話していました。しかしこんな状況になるとは誰も想像していませんでした。
高次脳機能障害者と家族の会は、都立病院のソーシャルワーカーの自主業務研究会をきっかけにして、1998年7月に設立されました。以後今日まで置き去りにされたこの障害の社会的な理解を広め、高次脳機能障害者と家族の会が希望を持って生活できるような環境と福祉施策の実現を、行政に訴え続けてきました。なかでも鈴木氏は、国や自治体に対する働きかけの中心となって、尽力してきました。元農林相の役人であった彼は、いつどこの誰に話を持っていったら予算に組み入れられるか、施策に反映できるかということを熟知していました。東京都の実態調査や国のモデル事業の開始に当たっては、彼の意見は大きく影響を与えました。世話人もそんな鈴木氏を頼りにし、国や行政への陳述や交渉は鈴木氏に任せ、地域での広がりに力を入れ始めていたところでした。ちょうど3月8日から読売新聞医療ルネッサンスで「高次脳機能障害」の連載が組まれることになり、鈴木氏も取材に協力していたところでした。担当記者の方から3月12日掲載の連載最終記事は鈴木代表の訃報記事に差し替え、会の新しい連絡先を載せたいとのお話がありました。そこで急遽とりあえずの連絡先を掲載させていただきました。記事が掲載された3月12日は、連絡先となった今井の家の電話が朝から鳴り続けました。全国紙の威力を実感するとともに、まだまだ世の中には高次脳機能障害について何も知らずに苦しんでいる方々が多くいることを身をもって知りました。
3月12日に臨時世話人会を開き、今後の活動方針について話し合いました。世話人も当事者の介護や生計を立てるための仕事を抱えており、鈴木氏のような精力的な活動は到底出来ないから、活動の縮小もやむを得ないのではという意見もありました。しかし救急医療の発達で、これからも増え続けるであろう高次脳機能障害は誰にとっても起こりうるものであるのに、対策や支援はまだまだ不十分です。また国のモデル事業は、今年度が最終年となり、18年度からは全国展開となる大事な時期となりました。そして前記のように、まだまだ私達の会に、藁にもすがる思いで連絡してくる方々が多数いらっしゃいます。こうした状況を踏まえ、鈴木氏の功績を無駄にすることなく、何とか活動を続けていこうという結論に達しました。そして代表に今井、副代表に大和田・片桐・世古・太田の4名を立て、世話人一同が協力して活動を進めていく体制を模索しています。ちょ
うど平成17年度の始まる時期にも当たり、関係機関へはご挨拶とともに、要望も含めてお話させていただいています。
急なことでしたため、葬儀の連絡を取り合うにも混乱してしまい、会員の皆様、また関係機関の方々には事後報告となってしまいました。大変申し訳なく思っています。5月29日の総会および交流会は、「鈴木照雄氏を偲ぶ会」として開催します。そこで後任人事の承認をいただきたいと思います。今後ともよろしくお願い致します。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子
No.28 平成17年に期待して
松飾りも取れ一ヶ月が過ぎました。一昨年は足立区、昨年は世田谷区に高次脳機能障害についての行政との係わりが緒につきました。そして今年は2月19日に「あしたの会」と共催で交流会を開催することによって、杉並区に関連が生まれました。高次脳機能障害についての行政の関心が、少しずつではありますが表面に現れてきています。これは地域のネットワーク構築の第一ステップとも考えられます。
モデル事業の方は平成16年度から支援事業に軸足を移し、拠点病院が支援拠点機関となり、支援センター、支援コーディネーターが中心となって活動するこ
とになりました。2月3日にはモデル事業の公開シンポジウムが開かれます。(戸山サンライズ、10~17時)また1月21日から開かれる通常国会では、「グランドデザイン法」として障害者福祉サービスの法案が審議されるはずです。この原稿を書いている最中に、前から要望していた新厚生労働大臣とお会いする日時(1月19日)の連絡がありました。ここでは脳外傷団体の東川さんらと一緒に高次脳機能障害についての諸問題を大臣に要望することになっています。高次脳機能障害に対する施策の早い確立と、それを障害者に対する新しい法律の審議の中身にも反映してもらえるように要望したいと考えています。この法案の持
つ意味は、私たちが考える福祉の理想的な姿には直接連動するものではないかも知れません。しかし、障害別の縦割り行政という現行の福祉施策に変化を与える内容になって欲しいと考えています。
今でこそ、高次脳機能障害についての理解が、マスコミなどの影響によって一般社会にも少しずつ浸透してきました。しかし依然として、救急医療後における障害が高次脳機能障害ではないかといった相談や治療のための病院探しなどの問い合わせが多いことからも、私たちが会を立ち上げた頃と実質的には変わっていないことに不満を感じています。モデル事業の過去3年間とこれからの2年間での実績が、高次脳機能障害に対する地域の認識や社会環境に影響を与えていってくれることと思います。またモデル事業の進展が、福祉施策が地方自治体に移管されて地域のネットワークによる社会的リハビリテーションが構築されていく中で、社会資源の活用や運用の見直しにおいてプラスになることが必要とされています。福祉施策という国からの高次脳機能障害者へのプレゼントが、開けて喜びを感じる中身であることを切望しています。モデル事業は平成18年度から全国展開となります。その前に、福祉行政に直接関わる地方自治体が具体的な取り組みをスムースにできるようなケースが一つでも二つでも出てくるように、支援拠点機関が新しい視点を模索しつつ、結果を出していってほしいと思います。
高次脳機能障害者が、社会との接点を持った日常生活を過ごせるような環境の整備を、年の初めに期待します。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.27 今後の障害保健福祉政策について
10月12日の社会保障審議会障害者部会において、「障害福祉サービス法(仮称)」に関する厚生労働省の試案が提示されました。この試案は検討を重ねた上で次期通常国会に関連法案を提出する運びとなっています。
以前にも書きましたが、現在の障害者対策において高次脳機能障害は福祉の谷間に置かれています。現実に福祉サービスを必要とする障害者が対象にならない大きな原因には、障害手帳の有無や手帳の種別というものがあります。この新しい法案が十分に福祉政策の軌道に乗るためには、もうしばらくは現行の手帳制度のままにならざるを得ないと思います。しかしいずれは、共通する障害に関連する福祉サービスの部分では利用できる施設やサービスを障害で区切ることはせずに、垣根を無くす方向になるはずです。このような考え方では、高次脳機能障害を持つ障害者と他の中途障害を持つ障害者の両方が利用する施設などでは混乱も懸念されますが、実施する中で関係者が知恵を出し合い、きめの細かいケアによって克服できる課題
であると思います。またこの問題は、従来型の障害者福祉政策にみられる3つの障害区分という縦割りの弊害によるものでもありますが、高次脳機能障害者支援モデル事業や支援費の統合問題などを背景にして、変更可能なものから法的な改善をしていこうという考え方もこの試案には見えています。
私たちが必要とする福祉政策の基本は、外見だけではわかりにくい日常生活上の障害を持つ障害者が社会の中で自立して生きていけるシステムの構築です。そしてこのシステムが現実に地域社会の中に密着した社会資源となることが切なる願いですし、「障害福祉サービス法(仮称)」の精神となっているところであると考えます。「障害福祉サービス法(仮称)」の施行には、現場である施設やサービスを担当している自治体による手直しが必要になってくると思います。ですが、実施について知恵を絞ることが高次脳機能障害への関心の高まりにもつながると思います。この法律の中で高次脳機能障害者へのサポートがどのような形で組み込まれるのかこれからの推移を見守り、より実態に即した法律にしたいものです。そのためにも
各市町村への働きかけは大きな影響力を及ぼすと思います。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄
No.26 これからのモデル事業に要望する
モデル事業も軸足を障害者支援に移し、16,17年度の2年間に全国展開のできる施策を検討する段階になったことを前号で書きましたが、今回の委員会から私も委員として出席しました。会議ではモデル事業に参加している自治体からの報告があり、昨年までの事業実績から支援モデル事業実施要綱により、中核病院を中心にして支援コーディネーターの配置、支援対象者の社会復帰支援のための相談や地域の機関との調整、高次脳機能障害者支援対策整備委員会の設置、この事業の円滑な運営のために実施の把握、関係機関の連携の確保や効果的な支援手法を模索する
ことなどが検討されました。
いま私が最も危惧する問題は、前述した支援コーディネーターの役割についてです。直接障害者と向き合った相談が、限られた施設でのものに限定されるのではないか、広く地域の医療機関や支援機関との現実的な連携が生まれるだろうかという点です。また、モデル事業がこれまでの3年間で地域の関連機関や自治体に浸透し理解されてきているのかという懸念もあります。地方からの個々の電話相談などからは、少数の中核病院を除いては該当する病院内でのみモデル事業が行われ、周辺の関連機関はモデル事業そのものも知らない事例があることがうかがわれます。さらに障害に対する理解の不足もあげられます。原因が脳血管疾患の場合と脳外傷の場合、障害者が熟年層と若年層の場合では、家族が直面する問題は異なってきます。しかし13~15年の3年間の事業実施のサンプリング調査からは、高次脳機能障害当事者の大多数を占める脳血管疾患を原因とする熟年層の抱える実情が汲み取れず、このことはモデル事業実施前から問題として提起してきました。これからの2年間は、早期に支援施策の実現を願ってきた高次脳機能障害者にとって本当に正念場になってくるでしょう。
モデル事業は今後2年間継続されます。現実に政策として支援対策が確立するには国の予算の確保が大前提になります。それには平成18年度の予算の概算を平成16年中に組む必要があり、それにはモデル事業の実績が重要になります。障害基本法の改正や、介護保険と支援費の統合問題も含めた障害者支援の基本的な支援体制の樹立は、障害者施策を3障害の縦割りに拘らず、視点を生活障害者の社会福祉に置くことによって可能になってくるのではと愚考しています。また医療面では、関係する各医師の研究が蓄積される必要があります。モデル事業の支援事業や厚生科学研究費、その他の研究ファンドの支援を受けて医学的治療の研究が進められ、医療と社会福祉が両輪としての役割を十分に担っていくことを期待しています。
2004.9.16
高次脳機能障害者と家族の会 代表 鈴木照雄