こーじ通信

こーじ通信 No.31~No.35(こーじ通信のご案内)

No.35 『リハビリ打ち切り改定』への反対署名について

 5月の連休中の電話でした。「4月の診療報酬改定で疾患別にリハビリの日数制限が設けられ、発症から最大180日でリハビリ医療が打ち切られることになった。この制度に反対したいが呼びかけ人になってくれないか。」というものでした。「ただし、高次脳機能障害は上限設定の除外の対象になっているのだけれど」という依頼者も困惑を隠せない話でした。私はこの時点まで、不勉強でこんな事態が起きていることすら知りませんでした。

 高次脳機能障害者は除外対象になっているというものの、私たちの会員にも「病院では高次脳機能障害だとは言われなかった」という人が多いように、「高次脳機能障害」と診断されなければ同様に打ち切られてしまうわけです。障害者がこうして部分的に切り離され、法の谷間に落ちる人が生じる政策は、本当に困ります。リハビリが必要な期間は疾患で決められるわけではなく、人によって違います。長いリハビリが良い、と言っているわけではありません。日数で制限するものではなく、「必要な人に必要なリハビリを」と考えます。私は当会の代表として呼びかけ人になることを承諾し、その後TKK(東京高次脳機能障害協議会)の所属団体として名前を連ねることにしました。5月の交流会や世話人を通じて、皆様にはご協力をいただき、ありがとうございました。

 この運動は自ら脳卒中後遺症のリハビリに励む免疫学者の多田富雄先生を中心に始められました。当初、脳卒中は除外対象ではなかったのが、おかしな話ですが、途中で除外規定に入り、また日本リハビリ医学会等の関係学会は署名運動に反対していたのが、厚生労働省に対して抜本的な見直しを求めることになりました。6月18日には巣鴨駅前で街頭署名活動を行いました。一度も会ったことのない人たちが、署名用紙やマイクを握り、訴えたこの活動は、私の胸を熱くするものでした。日にちが経つごとに、この署名運動は国民的運動になっていったような気がします。6月28日に集計結果が発表され、署名数はなんと44万4022名分となりました。6月30日に厚生労働省に提出し、多田先生が日数制限の白紙撤回を求める声明を発表する予定です。(署名活動についての詳しい情報は、活動母体のリハビリテーション診療報酬改定を考える会HPに掲載されています。http://www.craseed.net/)これからも「その人らしい生き方の選択」などというお題目とは程遠い日本の貧しい福祉医療政策にはNO!と声をあげていきたいと思います。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.34 障害者自立支援法スタート

 4月1日から障害者自立支援法が施行されました。障害者施策が大きく変わり「障害者が地域で安心して暮らせる社会の実現を目指す」ということが謳い文句ではありますが、すでにサービスの低下が懸念されています。ひとつにやはり利用者負担の問題です。低所得者の軽減措置があるとはいうものの、特に一人暮しの障害者は負担金が支払えない、という訴えを聞きます。現に小規模作業所に通っている主人の場合は今までは支援費制度で月2200円、同居している息子が扶養者負担金として徴収されていましたが、4月からはおそらく22000円ぐらいの利用者負担金になりそう

です。約10倍の負担です。入所施設や通所施設などは食費もかかり、その上ホームヘルプとの併用などは、さらに高額になるようです。

 3月に福岡市で、障害のあるお子さんをお母さんが包丁で刺殺し、ご自分も自殺をはかるという事件が起きたというニュースを知りました。自己負担がアップし、今まで利用していた作業所などが利用できなくなったからという原因を聞き、あーやっぱり起きてしまった、と胸が痛くなります。

 また重度の障害者にとっても、地域で生きていくことが難しくなりそうです。「重度」の利用者像が、かなり厳しく限定され、せっかく施設ではなく在宅で生活できるようになっていたのに、逆行しそうな内容です。

 尾辻厚生労働大臣は、「今までの障害者福祉サービス水準を維持する」という答弁をしていましたが、どうやら想像通りに、そういうわけにはいかないというのが現実になりそうです。障害者自立支援法は、障害者や難病の方々やその家族にとって死活問題とまで言われ始めています。

 私たち高次脳機能障害者についても、再三申し上げているようにいろいろなことが起きてくるだろうと思います。国会議員の中には「障害者自立支援法が成立したところで、もう済んだ事」と思われている方々もいると聞きます。10月1日からは福祉サービスの体系が大きく変わります。さらに大きな波が起こります。家族の会としては、TKK(東京高次脳機能障害協議会)の他団体とも共同して、アンケートなどで皆さんの実態を調査し、その実情を訴えていきたいと思っています。皆さんにはまたご面倒をおかけすることと思いますが、ご協力をどうぞよろしくお願いします。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.33 新しい制度のの中で

 今年の冬は一段と寒さが厳しく、皆さんどの様にお過ごしでしょうか。早いもので年が変わりすでに一ヶ月が経とうとしています。今年もどうぞよろしくお願いいたします。いよいよ介護保険の改正、そして障害者自立支援法が施行される年になりました。ここへきて省令通知等が次々と発令され、4月から適用されます。「所得の低い人達には負担の軽減を図る」とありますが、あきらかに当事者の負担額が増えます。高次脳機能障害者と一口に言っても、原因は多岐にわたり、24時間目が離せない重度の方から、寝たきりではなく、かといって就労はできず、見た目ではなかなか理解されにくい方々、就労できる軽度の方まで程度も症状も様々です。そういう個々の当事者を支援していくには、理解も含め、とても時間もかかり、支援内容も制度の中で使えるサービスのメニューは少なく、難しいものです。新しい制度の中で、高次脳機能障害支援モデル事業の成果がどの様に各自治体で展開されていくのでしょうか。国の支援モデル事業は『支援コーディネートマニュアル(仮称)』が中央法規出版から一般販売されますが、そのマニュアルをもとに地域でいかに実践できるのか、期待と不安で一杯です。

 東京都は国のモデル事業には参加せず、独自のモデル事業を行ってきました。昨年末に東京都リハビリテーション病院の3年間の「高次脳機能障害者社会復帰支援」の研究と実践の報告がありましたが、おそらく他の地域でも試行錯誤を繰り返しながらいろいろな支援を考え、実践してきているのだろうと思います。国のモデル事業が終了し、全国各地で展開されるに当たり、『支援コーディネートマニュアル』に限らずそれぞれの実践や成果の情報を交換、連携できたら、さらに支援は進むのだろうと思います。

 これから生活現場で、いろいろなことが起きてくるだろうと思います。家族の会としては皆さんからの声をくみ上げ、それに対する対処方法を一緒に考え、その実情を絶えず訴えていきたいと思っています。また当会だけでなく、他の家族の会や支援グループ、行政とも連携を密にし、少しでも豊かな生活ができるよう活動していきたいと思っています。みんなが新しい制度になる今こそ、現場での実態を声にして、その声を合わせて大きなものにして行きましょう。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.32 障害者自立支援法と家族の会の役割

 「障害者自立支援法」は、多くの障害者団体が抗議し集会等を開いていましたが、特別国会に再提出され10月14日に参議院通過、28日に衆議院厚生労働委員会で可決されました。この通信が発行される頃には、衆議院でも通過するでしょう。この法案は3障害の一元化や地域生活支援策の推進など評価できる事もありますがあくまでも「財政問題」からスタートしている法案です。問題点となっているのは、原則1割の定率負担が導入される「応益負担」です。介護度が高い重度な障害者ほど負担額が増大するということが起き、これは障害者福祉の逆行と言わざるを得ません。高次脳機能障害者にとっても、経済的理由でサービスが受けられなくなる可能性があります。また高次脳機能障害者は、身体障害か精神障害で手帳を取ることを前提としてこの制度の対象となります。尾辻厚生労働大臣は「サービス水準は維持する。サービスの利用抑制は起こらないようにする」と述べられたそうですが、高次脳機能障害者が再び福祉制度の谷間に落ちる事の無いよう、本当に現在の生活水準を下げず、期待されるサービスが受けられないなどという事が無いよう祈るばかりです。

 10月12日には毎年行っている東京都公明党の来年度予算のためのヒアリングに東京高次脳機能障害協議会(TKK)として、他の団体の方々と一緒に要望書を出してきました。行政職員・医療・福祉職・一般に向けての研修や講習等理解を広げること、ネットワーク作り、支援コーディネーターをはじめとする人材育成、重度の高次脳機能障害者の支援について、医療・福祉の情報センター機能を持った機関の設置と各自治体への相談窓口の設置、小規模作業所の設立、運営の支援や、自主グループへの支援、当事者・家族の心のケア、家族の会への情報提供や活動のための支援、経済的事情により福祉サービスに格差が生じないための支援、退院後、医療や福祉と途切れている高次脳機能障害者が沢山いることを考慮したニーズ調査すでに支援を始めている家族の会や事業所、団体等への補助金の交付などの支援策など、11項目にわたる要望を提出しました。今井が解説を加えながらの説明を行いましたが、30分という限られた時間、それに対する公明党の回答も途中で省略してしまう状況でした。国のモデル事業より先駆けて東京都は高次脳機能障害者に対する施策を行っている、今後もさらに具体的な支援を予算要求していくなどの話でした。

 私達はこれまで東京都、国をはじめいろいろな所に要望や陳情を行ってきました。これからは訴えるだけではなく、障害者自立支援法も含め、障害者が地域で普通に暮らせる「まちづくり」という観点から、各自治体においても行政と当事者及び家族とが協働で施策を考えるシステムを作る働きかけが必要だと思っています。世田谷に続き、杉並区でも「高次脳機能障害連絡機関協議会」が発足しました。家族の会の役割も地域で一歩踏み込んだ活動が大切になってきます。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.31 障害者自立支援法の行方

 7月24日の交流会では、厚生労働省の山崎晋一朗課長補佐をお招きし、国会で審議中の「障害者自立支援法」について、高次脳機能障害者にとってどうなるかというお話を伺いました。多くの人の関心事は、「入り口は3障害だが、サービスは共通」と言うが、本当に手帳が取れて適切なサービスが受けられるのか?応益負担とあるが経済的理由でサービスが受けられないのではないか、施設の体系の組換えにより、今受けているサービスすら受けられなくなるのでは?など、切実なものでした。

 その「障害者自立支援法案」は、みなさんご承知の通り、郵政民営化法案の否決に伴い衆議院が解散したため、審議できないまま廃案となりました。この法案は、特に精神障害者が他の障害と同様に障害者福祉施策の中に位置付けられた事、障害者の地域生活に重点をおいていること、障害者がもっと働ける社会を目指すこと等は評価できると思います。しかし支援費制度の財源不足問題を繰り返さないための財源措置が法案に盛り込んであり、「応益負担」(1割負担)の導入は、一番の論点になっています。扶養義務条項は酷と言うものです。重度の障害者、年金で生活している障害者は元より、高次脳機能障害者においても、一家の大黒柱が倒れ、日々の生活を支えていくのにやっとの家族や先の長い若年の人達は、使いたくても使えないサービスになるのではないか、今まで通っていた小規模授産所にすら行かれなくなるのではないか家族の負担は家族の社会生活も疎外されてしまう、と不安で一杯です。障害基礎年金を含む所得保障がしっかりないとやっていけません。また介護保険でもそうですが、使えるサービスが本当にあるのかという問題もあります。市町村の受け皿が不足しているだけでなく、サービスの設定の中に「生活リハ」という観点がありません。自己決定・自己選択という謳い文句とは裏腹に、選択できるサービスがないのですから、個人の尊厳などは非常にないがしろにされている感があります。

 ある議員と話していて「支援」という言葉は用心しろ、「保障」でなくてはならないという話がありました。確かに今回も国は大枠を示し、あとは自治体に任せる、というような感じさえあります。今回の廃案で、「慎重審議を、徹底審議を」を求めてきた多くの障害者団体にとっては、時間をかけて審議し、大幅な修正を加えることが出来ると考えていると思います。尾辻厚生労働大臣は修正なしに次期臨時国会で再提出すると発表しています。しかし衆院選の結果次第では大幅修正もありえ、どのような法案となるかはまだ不透明ですが、真に障害者の自立した生活を支援できるものとして充分審議して欲しいと願います。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子