こーじ通信

こーじ通信 No.36~No.40(こーじ通信のご案内)

No.40 高次脳機能障害者を支えるサービスとは

 毎日コムスンの介護報酬の不正請求問題が報道されています。介護保険制度が導入されたとき、国はその仕組みを支える資源として、公的機関のほか、多様な民間事業者の参入を考えてきました。それが進められれば、効率的で良質なサービス提供が期待できる、と謳っていたのです。

 しかしニュースでもお分かりのように、この制度、決して儲かるような仕事にはならないのです。昨年春の介護保険制度の改正では、介護サービスの質の向上を謳う一方で、介護報酬は引き下げられ、事業所の経営はさらに困難になったのです。安く、労働条件が厳しければ、ヘルパーのなり手がいません。「男の寿退社」という話も聞きます。仕事はしたいが、結婚するのに、この仕事では生活できないから転職するというのです。そんな厳しい世界なのです。だからといって不正が許されるわけではないのですが、厚生労働省も事業者に無理を強いている制度の見直しを考えるべきではないか、とニュースを見るたびに考えさせられます。

 「見直し」にはそのサービス内容もあります。「散歩」は介護保険ではサービス対象になりません。自宅に引きこもらず、外気浴をしながら足腰の運動となるはずですが、「趣味嗜好」になるとのこと。外出は「買い物」か「通院同行」しか認められません。まして高次脳機能障害者に対するサービスはもっと狭いものになっています。住み慣れた地域での「生活リハビリ」が大切なのですが、この「生活リハ」のサービスがありません。例えば公共交通機関を使って、行きたい場所へ行くのにヘルパーが同行する外出サービス。意欲低下の利用者が行きたい所を考えること、切符を購入すること、交通機関の乗り換えなどヘルパーの支援が必要なサービスですが、それも趣味嗜好に当たるのだそうです。身体に障害がある方に対する、限られたサービスしか利用できない現実があります。

 自立支援法では「地域生活支援事業」の中で高次脳機能障害者を支援していくということになりました。それを支えるのは各区市町村です。つまり区市町村の独自の事業ができるのです。杉並区では「移動介護事業(ガイドヘルパー)」の中に、高次脳機能障害者を加え、すでに実施しています。世田谷区では「失語症会話パートナー」という養成された方たちが、コミュニケーションに苦労している失語症の方に、筆記などによって伝えたり、言いたいことを引き出したりする支援をしています。ただまだこれはボランティアに留まっているので、使えるサービスとして制度を確立してもらいたいと願っています。在宅生活を支えるサービスの充実を今後も訴えつづけていきたいと思っています。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.39 家族の不安

 ソメイヨシノも終わり、八重桜の美しい季節になりました。数年前、病気だった知人が「今年は桜が見られるかしら」と言いながら、ソメイヨシノの開花を見ずに亡くなったことを思い出していましたら、同じ頃訃報が届きました。当会の副代表の大和田喜美子さんが急死されたというのです。

 大和田さんは、当会発足時から活動をずっと支えてきてくださった方です。「私は主人の脳の補装具」と言って、日々の生活で一生懸命頑張ってこられました。いろいろな会合にもいつもお二人でいらして、ご主人を気遣っておられました。「パパさんより先に私は死ねない」と口癖のように話しておられましたが、そのご主人の前で倒れられたそうです。お通夜では、ご主人が喪主として小さくなって座っていらっしゃり、胸が詰まる思いがしました。

 先に実施した東京都のニーズ調査(アンケート)では、皆さん一様に「将来の不安」を書かれています。一人暮しの方はもちろん、お子さんが障害者の方は、介護者の高齢化、そして親亡き後の不安を訴えられています。連れ合いが障害者の場合も同様、自分たちが介護できなくなった時にどうしたらよいのだろうかと不安な胸の内を吐露されています。認知症高齢者や知的障害者のグループホームはあるのですが、高次脳機能障害者のグループホームはまだないのではないでしょうか。また緊急事態のときに当事者を見ていてくれるシステムも確立しなければなりません。現在のショートステイでは高次脳機能障害が理解されていないために、安心して預けられないという話も聞きます。「住み慣れた地域で、安心して暮らしていかれるように」という題目は立派ですが、日々を支える介護者が介護できなくなったときの支援体制は、今後の大きな課題の一つとなります。

 大和田さんのご主人はこの4月から介護施設への入所が決まっておられたそうです。もしかすると喜美子さんはご自分の体のことをご存知で、いざという時のことを考えておられたのかもしれません。そのあたりのお話を伺うことができなかったのは残念ですが、最後まで大和田さんには大きな課題を提示されたように思います。私たちは行政に訴えるだけではなく、その時を想定して準備をする必要があるのではないでしょうか。家族だけで抱え込まず、いろいろな人やサービスを使い、生活の幅を広げる。若い人たちは社会性を身につける訓練をし、自立生活を考える等など。口で言うのは容易いのですが、実際には大変です。みんなで知恵を出し合い、真剣に考えていきたいと思います。

 大和田さんのご冥福をお祈り致します。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.38 「理解」という名の愛をください!

 時間の流れるのは早いものです。今年最初の通信ではありますが、もうすぐ2ヶ月が終わろうとしています。現在年度末のため、行政も含め事業などのまとめ作業に入っています。

 12月末に郵送しました東京都の「高次脳機能障害者支援ニーズ調査」は、1月25日が締め切りでしたが返信が少なく、2月末まで延長になっています。まだ提出されていない方はぜひご協力ください。都民の税金で行っている事業です。またこの結果が今後の高次脳機能障害者支援の施策に反映されます。困っていること、こうして欲しいという要望も含め、どうぞ意見をお出しください。

 昨年11月28日に東京都心身障害者福祉センター主催のセミナーが開催されました。基調講演の中で当事者と家族が出演され、受傷から今までのことを語られました。ゆっくりとしたお母様の語り口に、恐らく娘さんにそうやって話をされているのだろうと思いを馳せ、私の早口な口調では高次脳機能障害者にとってはなかなか理解されないだろうと反省したのでした。最後に娘さんが噛み締めるように話されたのが表題の言葉です。「理解という名の愛をください!」ゆっくり、静かに語られましたが、心からの叫びとして私の中にずしんと落ちてきました。当事者・家族の多くが思っていることでしょう。当事者の生の声は本当に説得力があります。私たちはこの思いを大事にして、もっともっと「理解」を広げる活動をしなければならないと強く思いました。

 暮れから1月にかけて、東京都医師会と東京都病院経営本部に『医療機関での高次脳機能障害にいっそうの理解を求める要望書』を東京高次脳機能障害協議会(TKK)として提出しました。以前東京都医師会には一度要望書を出し研修会が開催されましたが、それきりになっていました。また東京都福祉保険局に要望書を出した時に、都立病院を中心とした地域リハビリテーション支援センターにおいて高次脳機能障害の支援も行っていくという話があり、都立病院の管轄は東京都病院経営本部だとお聞きしたので、そこにも要望書を提出しました。まずは医療の現場で、高次脳機能障害を理解してもらわなければなりません。

 とにかく当事者・家族が声を出さなければ、状況を変えることは困難です。与えられるのを待つのではなく一緒に考え、より良い制度、資源を創っていくことに参画しなければなりません。「協働」というのはそういうことだと考えています。そして今年も理解を広げるための更なる活動をしたいと思っています。

 ご協力をよろしくお願いします。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.37 今、当事者の声を

 今年も残すところ2ヶ月を切り、巷ではクリスマスの飾りやらおせち料理の予約やら、年末に向かって忙しない様相です。そんな中、法制度をはじめ私達を取り巻くいろいろなことがありました。

 10月1日より障害者自立支援法が全面施行となりました。4月から原則1割の応益負担が始まり、通所やホームヘルプの利用を抑制したり、断念せざるを得ない人達が生じてきていましたが、10月からは介護保険制度のように障害程度区分の調査、審査会を経て、支給の決定がなされます。また介護給付・訓練給付と地域生活支援事業化の新サービス体系への移行が予定されている中、これまで障害者の地域生活を支えてきた通所授産、グループホーム、ヘルパー派遣の事業所も、事業単価の改定や日割り計算方式の変更によって、その経営が困難になってきています。

 程度区分調査では、当初から想像はしていましたが、高次脳機能障害者はその障害を軽く判定されている人が多いようです。調査内容には高次脳機能障害について判断する項目は少なく、この障害を理解し、特記できる調査員はわずかです。審査会では「高次脳機能障害があり、生活に困難である」という医師の意見書が大切になってきますが、それを書ける医師も少ないというのが現実です。

 10月31日には「出直してよ 障害者自立支援法 10・31日比谷大フォーラム」が行われ、1万5000人が日比谷公会堂や国会周辺に集結。「障害者自立支援法」の出直しを訴えました。

 また10月26日には衆議院第1議員会館内で、「リハビリの日数制限は直ちに撤廃を実害告発と緊急改善をもとめる集会」がありました。6月30日に44万人もの署名を提出し、その後さまざまなメディアが取り上げているにもかかわらず、未だ厚生労働省は動きません。この日は約250名の参加と国会議員57名が来賓として参加しました。TKK(東京高次脳機能障害協議会)からも参加し、当事者としての現状と意見を述べました。

 「リハビリ診療報酬改定を考える会」代表の多田富雄東大名誉教授のメッセージのように、「リハビリを打ち切られて急速に機能が低下、亡くなった方もいる。日数制限の緊急停止ボタンを早く押して欲しい」と切に思います。

 さらに10月20日には「高次脳機能障害支援普及事業第一回地方拠点機関等全国連絡協議会」にオブザーバー参加しました。モデル事業の後の支援普及事業を全国展開するものです。上記のことも含め、当事者がここで大きな声を出していかないと、動きません。皆さん、力を合わせましょう!

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.36 支援事業と要望書提出

 当会は発足以来、行政に対していろいろな働きかけを行ってきました。制度の狭間にあった高次脳機能障害者に対する施策を訴えつづけ、ようやく動き出したところです。こうして何度も要望書や陳情書を出してきて、それにも時期やタイミングが大事だということを教えられました。

 行政の事業は基本計画・実施計画に基づいて予算付けられていないと、実施できません。予算は関係部署からのもの、政党各会派の予算要望や議員提案、審議会などの答申や提言、市民の要望などを検討・調整して、決定されます。私たち当事者団体の要望も、この予算を検討する時期に出さなければ取り上げてもらうことができません。それがこの8月でした。東京都へ、地方自治体へ、そして政党へと要望書提出、ヒアリングと活動してきました。東京都や都議政党へは、TKK(東京高次脳機能障害連絡協議会)の参加団体として一緒に行動し、当会独自より大きな活動団体として提出しました。

 この予算は、最終的に議会の決議により成立するものです。支援の施策がどこにどう位置付けられたのかも、しっかり確認しなければなりません。特に今年は、10月1日から障害者自立支援法の本格実施にあたり、高次脳機能障害について、都道府県、市区町村に義務付けられた事業もあるので、今年度途中の予算に加え、来年度も何らかの事業は予算がつけられ、施策として実行されることになります。障害者自立支援法自体が、大きな福祉の制度改革であり、現場ではかなりの混乱が予想されます。その中で、高次脳機能障害についての施策が、どれだけ動くのか、チェックをしていかなければなりません。

 また東京都の昨年、今年の動きを見ていると実施までの動きに遅れを感じます。議会決定が3月末で、それからの具体的な動きとなると、どうしても遅くなるとのことですが、業務は年度末には終えなければならず、最後のところで端折られたようなことにならないようにと念じざるを得ません。年度末の道路の突貫工事が頭の中に浮かびます。高次脳機能障害者の回復には、長い時間がかかります。その支援も、一緒に寄り添い、息の長いものであって欲しいと祈ります。それには私たちの日々の活動が大事です。要望書の内容は、皆様からの相談や訴えが元になっています。これからも積極的に活動に参加され、どんどんご意見を発してください。またご自分の自治体で、陳情・請願・要望書の提出などをお考えの方はご協力いたしますのでご相談ください。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子