こーじ通信

こーじ通信 No.41~No.45(こーじ通信のご案内)

No.45 東京都高次脳機能障害者実態調査の結果から

 5月15日に、昨年度の東京都が行った「高次脳機能障害者実態調査」の結果がプレス発表されました。今年の1月に都内全病院全651か所(回収数419件)診療所287か所(回収数194件)と医療機関を受診している高次脳機能障害者938人(回答件数198人)を対象にした調査結果です。当事者のアンケートにつきましては、一部の方にご協力頂きありがとうございました。

 過去東京都は1999年に実態調査を行い、約4200人という数字が出ていましたが、今回は調査方法も違い、また国のモデル事業で全国約30万人という数字から、かなりの人数になるだろうとは予想していました。結果は49,508人約50,000人と推定されました。また、年間発生数は約3,000人とされました。また最近は脳外傷が原因の方が増えているとは思っていましたが、依然として脳血管障害が81.6%と多く、30歳代以上は脳血管障害の割合が脳外傷より高くなっており、60歳以上では脳血管障害者が89.8%を占めていました。

 10年前、制度の谷間にあり、何の支援もない高次脳機能障害者のために活動を続けてきた当会にとっても、この数字はとても重いものと考えます。当時から「社会問題になるぐらい増える!」と訴え続けてきましたが、事実そうなりつつあります。制度の改正が進められ、国の事業等でかなり社会に知られてきてはいますが、実際生活現場では、まだまだ理解や支援の資源が乏しいのが現実です。

 東京都は、この数字を踏まえて今後の施策を考えていくわけですが、実際にどういうサービスが必要であるかを訴えていくのが私たちの使命です。「後期高齢者医療制度」問題でも明らかなように、国の施策は財政との関係が大きく、高次脳機能障害者支援も大事だとは思うがお金がない、というのが本音だろうと思います。東京都もしかり。私たちも、限られた予算を、高次脳機能障害者施策だけに、と要求する気はありません。障害者も高齢者も、みんながより暮らしやすくなる社会を作っていきたいのです。そのためには東京都でも無駄を省き、みんなで知恵を出し合い、よりよい制度や資源の開発を推進していきたいと考えます。今後も生活現場からの声を政策として提言し続けていきたいと思いますので、こんなサービスが欲しい、こういうサービスが使えるなどなど、みなさまからのいろいろなご意見・情報をお知らせいただきたいと思います。

※下記URLをクリックして頂くと調査結果を見ることが出来ます。 http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2008/05/60i5f300.htm


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.44 高次脳機能障害支援普及事業全国連絡協議会に出席して

 2月29日に、国の高次脳機能障害支援普及事業全国連絡協議会と公開シンポジウムがありました。全国の拠点担当者たちが一堂に会しての会議です。支援普及事業では、障害者自立支援法に基づく地域生活支援事業において、都道府県が行う専門的な相談支援として実施を進めています。各ブロックからの報告を聞いていますと、2月29日現在30自治体が支援拠点機関を指定して支援事業を開始していますが、まだ全く手が付いていない県もあります。厚生労働省の重点施策実施5カ年計画の後期計画(20~24年度)において、平成24年度で、全都道府県に高次脳機能障害支援拠点機関を設置することとなっています。少しでも早い指定と実施と地域格差の是正を望むところです。

 午後の公開シンポジウムでは、当事者の家族の立場から今井も発表させてもらいました。この支援普及事業では、障害者自立支援法ということで進められていますが、当事者はそれだけで支援されているわけではありません。医療制度、介護保険、インフォーマルな資源の活用等など、何とか使えるサービスを利用して生活しているわけです。障害者自立支援法以外の施策についてはこの場での議論ではない、というようなことでは、本当の意味での支援にはならないのです。誰でも65歳になれば介護保険制度の利用者となるし、脳血管障害であれば40歳から第2号被保険者として介護保険制度に移行します。障害者自立支援法では出来ていた「生活リハビリ」が、介護保険制度では実施が難しいとされることは、当事者にとっても家族にとっても大きな問題です。国のモデル事業では、若年層にスポットを当ててきましたが、その若者もそのうち介護保険の枠に入ってくるわけです。制度によって分断されることのない継続した支援が欲しいのです。

 また相談事業についても意見を述べました。支援拠点に相談窓口を設置するというところまでが国の施策で、各自治体の相談事業はその自治体に任されます。継続したきめ細かな相談は、生活圏の中での相談窓口でなければ対応できません。そこまでを国がお金を出す制度にしてくれないと、地域での相談窓口の人材は増やすことができません。当事者や家族にとって、医療から福祉まで、先の見通しや介護方法など細かなアドバイスや地域の情報を教えてくれ、ずっと一緒に支援してくれる相談窓口が地域にあったらどんなに助かるでしょうか。そんな家族の切実な思いを訴えました。

 それでも国や都道府県、各自治体も事業計画と予算に基づいての事業実施です。すぐに変えられるわけではありません。これからも声を大にして当事者の置かれた生活状況を伝え続けて行きます。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.43 10年目の年を迎えて

 新年を迎えてから、早くも1ヶ月が経とうとしています。今ごろ新年のご挨拶もおかしいのですが、今年もどうぞよろしくお願いします。

 新年早々素敵なニュースが飛び込んできました。当会も加盟している東京高次脳機能障害協議会(TKK)が、12月26日にNPO法人(特定非営利活動法人)に認証されました。9月9日設立総会を開き申請をしたのですから、かなり早い認証だったと思います。2005年に当会が加盟し、それまで独自に行ってきた国や東京都への要望書を、TKKとして提出するようになりました。TKKは当事者会が10団体集まった連合組織ですから、1つにまとめての要望や意見はより強力なものになっています。東京都での各種委員会にも委員として参画でき、当事者の実態と要望を伝えることができています。そのTKKがそれまでの任意団体ではなく、NPO法人になったのです。活動の幅もさらに広がることでしょう。

 さらに当会は、今年10周年を迎えます。発足当初は、都立病院のMSW(医療ソーシャルワーカー)の方々のバックアップや墨東病院のご厚意で何とか運営していました。そのころは「高次脳機能障害」という言葉も世の中で全く知られておらず、とにかく理解と支援を!と鈴木照雄前代表が中心となり、国に、東京都に、マスコミにと一生懸命訴えてきたのです。そういう中で国はモデル事業、支援普及事業を行い、福祉制度にも変革があり、支援体制の図式も出来上がり、実践が始まりました。10年ひと昔、と言いますが、感慨深いものがあります。

 そういう状況の中、私たちはこれから何をすべきかを今一度しっかり考え、活動していかなければなりません。これまで活動してきて思うことは、どんなに支援体制や制度が変わっても、当事者や家族の気持ちが一番解るのは、当事者や家族であることです。受傷した時の気持ち、驚き、困惑、悲しみ、混乱などなど、当事者たちでなければ解らないことがたくさんあります。救命救急医療が発達し命は助かるものの、残念ながら私たちの仲間が増え続けているという現実もあります。そしてみんな同じような気持ちや状況に置かれるのです。いろいろなことを乗り越えてきた者たちは、これからの人たちに何かを伝えなければならないし住み慣れた地域で暮らし続けていくために、支えていかなければなりません。TKKが10団体集まって力を発揮したように、みなさんも是非当会の活動に積極的に参加してください。10年間で世の中が変わってきたように、これからもさらに暮らしやすい社会を一緒に創っていきましょう。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.42 高次脳機能障害の施策と現状

 国の高次脳機能障害者支援普及事業が全国展開されるようになり、少しずつですが動き出しています。東京都では昨年11月より東京都心身障害者福祉センターが高次脳機能障害支援拠点機関として活動を始め、相談窓口として業務を行うほか、情報提供やネットワーク作り、就労支援等精力的に展開しています。地域差はあるものの区市町村でも相談業務や自立支援法の地域生活支援として、独自の支援施策を打ち出している所もあります。ようやく「高次脳機能障害」という障害名が世の中に広まり始め、行政や支援者たちが動き出し、当事者や家族も相談できる所が判りやすくなったのかと思います。

 当会にも相談が相次いでいます。しかしその内容は以前よりも増して難しいケースが多くなってきている感じがします。障害の状況が重度で、しかも脳血管障害においても年齢が下がってきているようです。相談を受ける側も簡単にお答えできないケースが増えています。それだけに家族の負担、不安、疲弊は大きくなっているようです。

 10数年前、日野原重明先生の講演の中で「これから医療がどんどん発達していきます。そうしたらこの世の中はどうなるか想像してみてください。」と問われたことがあります。結論は「今まで助からなかった人たちも助かる。しかも障害を持って。高齢者は長生きし、子どもの数は減少し、世の中はどんどん弱体していく。」その頃の私は、なるほどそうかと漠然と思っていたのですが、だんだんそれが現実になってきているのでしょう。日野原先生はそこで「新老人論」を展開し、元気な高齢者を作っていこうと話されていました。国の施策も「予防介護」で寝たきりにならない高齢者を作ろうとしています。

 さて障害を持ってしまった当事者や家族はどうしたらいいのでしょうか。先日の区西南部高次脳機能障害支援センターの高次脳機能障害支援講習会(後述)では、そのアンケートの中に「予防介護」「パワーリハ」の用語を見つけ、驚きました。まだまだ高次脳機能障害者の実態を理解してもらうには時間がかかりそうです。支援を要求するだけではなく、生活リハの観点からの支援方法を、私たち自らも実践の中から提案・発信しなければならないでしょう。さらに地域差の是正には、住民としての声を上げ、行政、医療、福祉を動かさなければなりません。私たちは日々の介護や生活に追われながらも、さらにより具体的な活動が問われ始めているのだと、改めて強く思いました。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.41 支援普及事業の中での家族の会

 平成17年に高次脳機能障害者モデル事業が終了し、今は障害者自立支援法に基づいた高次脳機能障害者支援普及事業が全国展開されています。7月4日に国立身体障害者リハビリテーションセンターにて「支援拠点機関全国連絡協議会」が開催され、オブザーバー参加してきました。この支援普及事業は地域での相談機関や支援体制が図られるように、都道府県に1箇所以上の支援拠点と支援コーディネーターを配置することになっています。7月の時点で全国26都道府県において支援普及事業が行われています。それぞれの拠点の発表がありましたが、その状態は当然のことながらかなりの差があります。ようやく拠点が決まったところ、支援コーディネーターはまだ配置されていないところから、事業展開をどんどん進めているところまで、かなりの開きがあり、さらにまだ取り組まれていない空白地帯があることも事実です。当会に相談される方の中にもこの空白地域の方がいらして、支援体制や家族の会の有無を聞かれることがありますが、どうしてあげることもできず歯がゆい思いをします。近隣の県にある拠点をお知らせしせめてその方を中心に家族の会を立ち上げようと思ってくだされば、協力は惜しまないとお話するしかないのが現実です。私たち家族の会の無力さを感じる一瞬です。

 東京都は先のモデル事業には参加しなかったのですが、今回の支援普及事業では今までの独自のモデル事業の成果もあり、東京都心身障害者福祉センターを中心に新たな支援事業を展開しています。

 7月4日の全国連絡協議会でも特別に東京都の実施状況が発表されました。また7月18日には、「高次脳機能障害者相談支援体制連携調整委員会」が開催されました。全国で空白地帯があると言いましたが、東京都の中にもかなりの温度差があります。そして地域に家族の会がない所があります。私たちも交流会等をなるべくいろいろな所で、そしてアクセスの良い所を選んでいるつもりですが、なかなか東京都も広く、全域に行き渡るような活動展開ができません。地域に家族の会がないと思っていらっしゃる方がいましたら、ぜひご連絡ください。いっしょに活動を広げていきたいと思います。

 9月はブロック交流会を各地で開催します。日程場所でご都合のつくところに参加してください。悩みや不満、不安、国や東京都、各自治体に提出する要望書に盛り込みたいことなども、積極的にお話ください。当事者家族の役割は、地域資源としてこれからも大きな期待を背負っていると思っています。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子