こーじ通信

こーじ通信 No.46~No.50(こーじ通信のご案内)

No.50 今年度の活動について

 早いもので、今年も半分が終わってしまいました。長年行ってきた国や東京都への要望書などの提出は、TKK(東京高次脳機能障害協議会)でまとめて行うようになってきた現在、当会の活動の在り方をいろいろ探っています。去る5月31日には、当会の総会を開催し、今年も引き続き、家族の会としての活動が承認されました。

 活動をしていて、一番求められているのは「相談機能」です。電話がよくかかってきます。ご自分の現況を話され、今後どうなるのだろうかと、不安な胸の内を吐露されます。その戸惑いは話すことによって、少し解消されるようです。また「情報提供」によって、これからのことにちょっと希望が見いだせる方もいらっしゃいます。必要であれば、地域の世話人が引き続き対応し、お会いしたりブロック交流会などの参加をお誘いしています。

 また野外で行う交流会やここ数年続けているボウリング大会を、楽しみにされている方もいらっしゃいます。家族だけではなかなか外出できない方、この機会に外へ出てみようと思う方、仲間に会って話したい方、思いはそれぞれですが、そういう機会を提供する役割も必要かと思っています。

 総会の後の講演は、中島恵子先生に「家族の対応」についてお話していただきました。「高次脳機能障害とは」という話は、あちこちで聞くことができ、また出版物、インターネットでの検索などで知ることは容易になってきています。では介護する私たちはどうしたらいいの?という思いに、少しでもヒントになればとの企画でした。元気で明確な中島先生の話に、「役に立った」「良かった」の感想を多くいただきました。

 高次脳機能障害者への支援は、当会が発足した当初に比べれば良くなってきていると言えるかもしれません。しかし自分の住む地域では、なかなか思うような支援が受けられないということを、多くの方々が直面しています。東京都においても地域差はあります。いつもお話していますが、地域で当事者たちが声を上げない限り、地域は変わっていきません。

 今回「みんな元気」で手記を寄せてくださった渡辺さんが世話人に声を挙げてくださいました。さらに品川区でも支部活動を始めようと積極的に動き始めました。当会ではこういう活動にはできる限り、バックアップをしたいと思っています。要望書、政策提言も含め、一緒にやっていけたらと思っています。ご自分の地域でも何かしたいと思われる方は、どうぞ手を挙げてください。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.49 脳卒中と高次脳機能障害

 3月上旬にこんな記事がありました。『日本脳卒中協会の山口武典理事長は、脳卒中を予防したり、後遺症を減らしたりするための「脳卒中対策基本法」(仮称)の制定を呼び掛けた。(中略) 同協会は基本法の制定によって、政府、地方自治体、医療保険者、医療従事者らが協力して予防事業などを進められるようになるとしている。具体的には、▽「脳卒中を発症したら直ちに受診」を国民に徹底周知▽119番すれば、24時間全国どこでも、専門病院に搬送してもらえる仕組みを整備▽急性期から維持期(慢性期)まで途切れることなく最新の医療、リハビリ、療養支援を受ける仕組みを、全国的に整備▽脳卒中の後遺症と共に生きる患者と家族の、生活の質の向上と社会参加を支援―などを目指していく。

 以前、「日本脳卒中協会」のホームページを見て、そこには「高次脳機能障害」という言葉が一つもなく、その活動の大半が「予防」であることに、ちょっと驚いたことを思い出しました。また脳卒中友の会の方々と会合を持ったときに、その会場になかなかたどり着けなかった友の会の方と我が家の主人は、お互いに「良く似ていますねぇ」「これが高次脳機能障害ですか、僕もその地誌的障害ですね」などと笑いながら話していました。この時、病院等で「高次脳機能障害」と言われた人、「脳血管性認知症」と言われた人で、違う道を歩んできているのだなぁと思いました。

 なぜこんな話をするかというと、東京都の実態調査でも高次脳機能障害者の8割近くが脳血管障害が占めているからです。当会の会員たちの比率もほぼ近いものです。高次脳機能障害に理解を!と活動してきましたが、働きかけて動いたのは障害者福祉の領域で、65歳以上の第1号被保険者や40歳以上の第2号被保険者は、高齢者(労健局)の領域なのです。国のモデル事業は、明らかに後者を切り捨て、脳外傷の若年層を対象にしているものです。

 この4月から介護保険制度の報酬改正がありました。その中に「認知症加算」というものが加わりました。増加する認知症ケアに重点を置いたものです。脳血管障害者は若年性認知症も含めて、介護保険制度で良い、とされてしまっています。私たちは、進行する認知症ではない、リハビリなどでかなり改善が見られる、と「高次脳機能障害」を全面に打ち出し、さらに当会は、「原因を問わず、高次脳機能障害の支援を」と活動してきました。今、これからの活動の方向を、考えなければなりません。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.48 10年間の活動を振り返って

 早いもので、今年もすでに一カ月が過ぎてしまいました。今年もどうぞよろしくお願いします。

 さて昨年、当会は10周年を迎えました。当初は「高次脳機能障害」という言葉も世の中で全く知られておらず、とにかく理解と支援を!と鈴木照雄前代表が中心となり、国に、東京都に、マスコミにと一生懸命訴えてきました。また同時に、勉強会、講演会を続け、当事者や家族自身が、高次脳機能障害を理解することを続けてきました。

 日本医療政策機構市民医療協議会の乗竹亮治氏は、家族の会・患者会を次のように定義しています。 「患者会には3つの段階があると思う。一つ目は癒やしの場としての患者会、二つ目は、情報共有、情報発信の場としての患者会。次に政策を変えようと声を上げているのが「アドボカシー団体」としての患者会。日本では、第3段階まで来ている患者会というのは極めて少ないという現実がある。欧米が市民主体の医療を勝ち取ってきた背景には、第3段階の患者会のアドボカシー活動の貢献がある。そういう意味で、日本でも第3段階の患者会を増やしていく、もしくはサポートしていく必要があると思う。ただ、それぞれの段階が重要で、段階に応じた役割がある。(中略)」

 これによれば、当会は家族の会としては未熟のまま、前代表の鈴木さんの活躍により、この3つの役割を同時に果たしてきたようです。

 当会は「高次脳機能障害」を、原因を問わず、後遺症としての障害としてとらえてきました。結果、様々な症状を抱えた人たちがいます。家族の会の中にあっても、自分が抱える当事者から高次脳機能障害を考えるので、当然そのイメージは違っています。脳を中途で損傷された人たちの実態は、遷延性意識障害から行動援護が必要な人、若年性認知症と呼ばれるような人、身体障害者手帳のある人、国がモデル事業で取り上げた手帳の取れない一群など、多種多様です。

  制度の挟間にあって支援を受けられない人たちを何とかしてくれと訴えてきたのに、施策の位置づけの中に「高次脳機能障害」が混在し、さらなる狭間を作ってしまったのではないかと不安になってきます。そのことにより支援が進まなかったり、誤解を招いたりすることがないようにと心から願っています。

  家族の会としては、これからも癒しの場(セルフサポート)や情報発信の役割も担いつつ、実態を現場の声として発信し、国や各自治体に政策提言を続けていくことが役割と考えています。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.47 求められる、地域の「福祉力」

 「元に戻してください!」脳を損傷した当事者やその家族の本当の望みは、これだと思います。元のように「治して!」ということです。

 しかし私たちは「脳の手術は治すものではなく、救命のためのもの」「脳は損傷されたところは再生することはなく、元には戻らない」と教えられてきました。そして「リハビリをすることで、他の脳が代替えすることがあり、改善がみられる」と言われ、それは「長いスパンで見ていくことが大事」と教えられました。「元に戻らない」けれど、「改善される」ことを、家族も当時者も「良くなる」と思って(決して元には戻らないという悲しみを持ちつつも)、日々リハビリを続け、生活しています。

 当会は今年で10周年という経緯の中で、はじめは「高次脳機能障害」についての理解、その施策を訴えてきました。まだまだ周知されているとは言えませんが、国のモデル事業があり、自立支援法の中での支援施策が始まった現在、具体的な在宅での対処方法やリハビリ方法が求められています。

  10月5日にTKK(東京高次脳機能障害協議会)が主催したボランティア養成講座「脳と心のリハビリ」(後述)には定員を大きく上回る申し込み者がありました。みんな「良くなる」ことを信じ、その方法を知りたい、実践したいと考えています。それは当然のことだと思います。

  問題は、そのリハビリのために、一部の病院やグループに殺到することです。たとえそこでリハビリをして改善が見られたとしても、生活する現場でどう生きていくかという視点を忘れてしまったら本当の意味でのリハビリにはなりません。東京都の実態調査で高次脳機能障害者は約5万人、全国で約50万人いるとされる、いつ誰がなってもおかしくない障害です。多くの人たちが、自分の住み慣れた地域で、少しでも生きやすくするための方法を考えていかなければならないのです。家族も医者も支援者も、そのことを忘れないでほしいと思います。遠くの 病院まで、わずか30分のリハビリに通院したり、自分の地域で集える所がないから、遠くのグループまで行くなどということがなくなるために、地域での支援の充実が望まれます。地域が充実したら、高次脳機能障害者に限らず、障害者も子どもも高齢者も、みんなが住みやすくなるのです。

  東京都では12の二次医療圏のネットワーク作りが進められていますが、地域差は益々広がっている感じがします。まだ「当区には高次脳機能障害者はいません」と言う行政職員がいます。これからの課題は、どうやって地域の「福祉力」をつけていくか、ということです。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.46 今後の課題 -当事者・家族の状況から-

 今年は家族の会が活動を始めて10年目という節目の年です。10年と一口に言いますが、私たちを取り囲む社会もかなり変化してきており、当事者・家族の置かれている状況も様変わりしています。

 まず医療制度の改正に伴い、入院日数が短縮され、リハビリ病院などに転院できれば良いのですが、そこも2,3ヶ月という短い期間になってきています。当事者は勿論、家族も障害の受容ができないまま退院せざるを得なくなっています。また退院させる医療機関も、その方が生活する地域での支援体制の情報に乏しく、退院後の在宅生活のイメージがしっかり提示できないままの退院となることが多いようです。支援普及事業でも、発症から在宅生活への流れの中で、医療・福祉・行政の継続した支援が必要と常に言われ続けてきてはいるものの、実際にはそううまくはいかないのが現実です。

 そもそも在宅生活を支援していくための資源が少ないのです。自己選択などとはほど遠いのです。地域での相談支援、フォーマル、インフォーマルの幅広い支援の開発、連携が求められます。地域の支援は地域で、とはいうものの、そこからは自助努力というのではなかなか進みません。そこにも公的な支援(人材育成や資金の援助も含め)が必要であろうと思います。

 また雇用形態も変化してきており、契約社員、派遣社員が増えています。受傷とともに契約は切れてしまい、入院費の支払いもままならないというケースもあります。また起業家、フリーター、ニートなど、社会保障制度の枠に入らない方もいます。最近では若年の受傷者も増え、経済基盤が弱いのが特徴です。また単身者の問題もあります。在宅生活に戻るには社会全体で支えていかなければならず、生活保護の問題も含め、今後増えてくるだろうと考えられます。

 東京都の実態調査でもわかるように、脳血管障害による当事者が依然として多いのですが、これはこれまで「脳卒中による認知症」といわれてきた人たちの中で「高次脳機能障害」に気づいた人たちがカウントされてきていると考えられます。全国で140万人近くいる脳卒中者の半分ぐらいは、何らかの高次脳機能障害があると考えると、その数は今後益々増大するでしょう。

 救急医療の発達で高次脳機能障害者は増え、社会問題となるであろうと、発会当時から訴えてきていますが、増大とともに、重度化も問題になっています。高次脳機能障害としてだけではなく、身体障害、精神障害、知的障害、遷延性意識障害の部分も含め、大きく「脳損傷による後遺障害」というとらえ方をしていかなければならない時期になってきているのかもしれません。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子