こーじ通信

こーじ通信 No.56~No.60(こーじ通信のご案内)

No.60 家族の心のケアについて

  今年も5月29日に総会を終えることが出来ました。あいにくのお天気でしたが、あとに『日々コウジ中』の著者、柴本礼さんの講演会があることで、多くの方が参加してくださいました。以前から何度もお話ししていますが、政策提言、要望書に関しては、TKK(東京高次脳機能障害協議会)でまとめて行うようになってきた現在、当会の活動は、家族や当事者にさらに寄り添うものと考え、今年も活動していきたいと思っています。
  最近、お子さんが交通事故で高次脳機能障害者になられたお母さんから、お話を聞く機会がありました。当事者であるお子さんの介護も大変なのですが、そのご兄弟のお子さんのことで悩んでいらっしゃるとのこと。「お母さんは良いわよ。家族会で話すことが出来るもん。私は友達にも誰にも話せないし、判ってもらえない」と言われたそうです。それまでの兄弟関係が大きく関係してくるのだろうと思いますが、他の兄弟たちはその関係性が変化し、思い悩むことが多くなります。頼りになっていたお兄さんが障害者になって、どうしたらよいか分からなくなってしまった妹さん。明るく兄弟を引っ張って行ってくれたお兄さんが暴力をふるうようになって、その子も精神を病むようになってしまった例。結婚が決まっていたのに、障害者の兄弟を持ってしまったために取りやめてしまった例。両親が障害になったお子さんにだけに一生懸命になってしまったと、親の愛に悩むお子さん、逆に両親が他の子に心配を掛けさせたくないと、詳しい話をしないで来てしまったため、障害を理解できないで苦しむ例などなど、力や影響力が強かった兄弟が障害者になった場合はかなり深刻な状況があるようですが、そうでなくても大なり小なり何らかの問題が起きているようです。先のお子さんの言葉にもあるように、当会での懇談会での話や相談には、確かに奥さんや親御さんからのものが多く、それはそれで問題はあるものの、世話人の経験談などをお話しして、少しは不安や問題を解消していただけたようです。
  今回のお子さん同士の関係性については、以前から時々話には出ていましたが、結構大変な問題だと思います。兄弟の数も少なくなっている現在、「親亡き後の問題」は、直接兄弟に関わってくる問題でもあるのです。またお子さんが小さい時に親御さんが障害者になった場合も、成長に大きく影響してきています。今までのように「家族の心のケアを」と訴えるだけでなく、もっと詳しい実情を伝えたいと思います。また家族会で何が出来るか判りませんが、お子さんたちの問題に今年は取り組みたいと考えています。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.59 災害時の障害者

  このたびの東北地方太平洋沖地震の被害は想像を絶するのもであり、被災された方々に心よりお見舞い、お悔やみを申し上げます。原発に関してもまだまだ予断を許さない状況であり、この未曾有の大災害による被害の大きさは、計り知れません。次々に流れてくるニュースの映像に、言葉も無くただただ被害に遭われた方々の恐怖と悲しみを考えると、こちらも胸のつぶれる思いでした。
  当会は東京が中心の小さな会ではありますが、東北地方にも会員はいらして、その方々はどうされているのか不明です。そんな中、全国組織である脳外傷友の会の東川さんからは、刻々と情報が入ってきました。無事が確認された情報、物資の足りない情報、そして日本障害フォーラム(JDF)を始めとした障害者団体が次々と緊急要望書を出していることなどなど。なんとも心強いものです。
  普段ですら不自由な障害者の方々は、多くが犠牲になられたであろうと想像します。さらに避難所でも車椅子はお断り、と言われたという話も聞きました。体育館のあの生活に車椅子では入れない、ということでした。人工透析や薬が足りない情報は入ってきますが、避難所にも入れない「災害弱者」はいったいどうされているのでしょうか?介護者と共にいられなかったり、自分の置かれた状況が理解できなかったり、言葉に出来なかったり、配られている食べ物などを取りに行けなかったり。その実態すら判らない状況です。
  2月25日に行なわれた支援拠点機関連絡協議会に参集された被災地の支援拠点はどうなっているのでしょうか?「災害弱者」である高次脳機能障害者たちへの支援が展開されているのでしょうか?なにか情報はないかと探した国立障害者リハビリテーションセンターのホームページには、3月24日付で「東北地方太平洋沖地震」被災地で「高次脳機能障害者」に対応される方へ 、という文章が出ました。高次脳機能障害の特徴を記し、被災地で支援に携わる方たちへ、理解と協力を訴えています。今更ですが、やはり普段からの周知が大切なのですね。
  東京でこうして心配している時にも、被災された方々や政府、与野党、自治体、民間、関係者がこの困難を懸命に乗り越えようと頑張っていらっしゃいます。私たちは自分達も当事者を抱え、被災地に飛んでいくことも出来ませんが、微力であっても何かできることを考えて行なって行きたいと思います。一日も早い復興を心から祈っています。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.58 地域の特性と地域格差

  ついこの間、新年を迎えたと思ったのですが、すでに1カ月が経ってしまいました。遅ればせではありますが、今年もよろしくお願いします。
  年度末が近づいてきているせいでしょうか、研修会、講演会が増えています。家族の会の代表として、講師を頼まれることも多くなっています。1月は佐賀と長崎に行ってきました。
  佐賀は「がばいばあちゃん」ぐらいしか知識がなかったのですが、たしかに町の中に川がたくさんありました。なるほど家の裏の川から野菜が流れてきてもおかしくないなぁなどと思いながら町を歩きました。「佐賀は車がないと生活できない」と県庁の方が話されていました。急行電車も30分に1本とか。実際昼ごはんに誘ってくださった家族会のご夫婦は車で迎えに来て下さいましたが、走っている車内で、当事者が運転されているご主人だと知り、びっくりしました。県庁の方は、「東京に行ったら電車が便利で、車を運転しなくてもいいなぁ、いや出来ないって思いました。佐賀じゃ一軒に一台ではなく、一人に一台ですから」と笑いながら話していらっしゃいました。東京ではそんな車庫スペースがない!そうねぇ確かに電車もバスもたくさんあって、それも数分ごとの運転で、便利なんだと改めて思った次第です。東京では、社会復帰の一つとして「公共交通機関を利用して外出する」リハビリ訓練をしたりしますが、ひょっとして佐賀では運転練習なんていうのもリハビリメニューに入れているのでしょうか?
  長崎は坂の多い町でした。デイホームの送迎車が家の前まで入って行けず、職員がおぶって、家から連れ出し、また帰っているとのこと。デイホームに行かないまでも、足が弱ってきた方々、身体に障害がある方々にとっては大変な生活だと思いました。
  当然ですが、みんな自分の住んでいる地域を中心に支援も考えてしまいます。こうしていろいろな所に行くと、その土地柄があり、そこでの問題点もだいぶ違っているようです。東京の中でも地域格差はかなりあり、支援普及事業が進んできている中での大きな問題点になっています。高次脳機能障害についての理解がまだまだ、という遅れがあっても、ないものねだりをするだけではなく、そこの地域性を生かした支援が展開できるように発想の転換をしていければいいなぁと思います。切り口はいろいろです。以前温泉町で障害者施設の日中活動で、足湯に浸かりに行っている写真を見せてもらったことがあります。地域資源は探せば、ユニークなものが見つかるかもしれません。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.57 地域の理解と支援を広げていくということ

  11月7日に品川・大田・目黒共催の高次脳機能障害勉強会が開催されました。詳細は後段にありますが、品川支部が大田、目黒にも声をかけた合同の勉強会となり、参加者も当事者や家族だけでなく、区の職員、議員、医療、福祉関係者が多く集まりました。点の活動が面として広がったと感じたひと時でした。
  住み慣れた地域で生きていくためには、地域での理解と支援が大きく関係してきます。支部の地域活動は、セルフケアや情報共有、情報発信の場であり、政策提言へと進めていく原点です。この日は講演会の後、目黒の家族会が設立しました。今後も高次脳機能障害者と家族の会との連携も出来たらと思っています。
  地域での理解を広げていくということは、なかなか言葉で言うようには進みません。これまで地道な活動を積み重ねていくことが大事だと思って、出来る人が出来るところで無理のない活動を継続することを実行してきました。しかし高次脳機能障害という障害名はだいぶ浸透してきていますが、本当の理解はまだまだかなぁと思っています。医療から福祉への切れ目ない支援などと言われていますが、特に急性期の医療機関では、地域に戻っての生活はイメージしにくく、さらにそれを支えていく支援機関との連携は難しいのかもしれません。
  高次脳機能障害という障害名は最近ついたものかもしれませんが、昔から脳卒中や事故による後遺症はあったわけで、医療機関も多くの患者を地域に戻していたはずです。そして当事者たちはおそらく「うちのお父さん、馬鹿になっちゃった」という感じで、地域で生活していたのだろうと思います。今、脳の研究が進み、その症状やリハビリが研究されてきています。支援の体制も、当事者を中心に、家族、病院、リハビリ施設、行政、相談窓口、施設、ヘルパー事業所、ボランティア、町会や民生委員、近隣の住民など、多くの人が輪になっていて、連携を取りながらその支援を行うという図式があります。しかし実際は、医療機関での高次脳機能障害の説明もできていない所も多く、また地域に戻ってきてからの支援体制は、自分たちで探さなければならない状況は続いています。少しでも地域で生きやすくなるために、地道な活動の中でも、今回の品川支部のように、支援者だけでなく、医療、行政も巻き込み、他の地域や家族会との連携も積極的に行っていき、地域の理解を面で広げ、支援をさらに深めていくことが大事だろうと思います。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.56 快進撃!『日々コウジ中』

  前号でご紹介した、当会会員の柴本礼さん(ペンネーム)が書いたコミックエッセイ『高次脳機能障害の夫と暮らす日常コミック 日々コウジ中』が8月27日に発売されて以来、あちこちで評判となり、快進撃を続けています。
  本書は夫コウジさんがクモ膜下出血により高次脳機能障害となり、以来リハビリを続ける日々の生活をほのぼのとしたコミックで描きました。夫が巻き起こす数々の騒動や、リハビリを全力で支える家族との日々が赤裸々に、そしてちょっぴりユーモラスに描かれています。
  発行された次の日、ケアセンターふらっとで開催されたエテ・マルシェ(高次脳機能障害者自主グループ・コージーズ主催の夏祭り)で、柴本さん一家と一緒に本の宣伝と販売を行いました。「朝日新聞でこの本のことを知ったので買わなくちゃって思っていたところ。こんなところでご本人にお会いするなんて!」とサイン入りの本が次々に売れていきました。そのころ、出版元である主婦の友の担当編集者から「Amazon5位!」とメールが入り、しばらくして「Amazon2位!」とのメール。そのたびに歓声が上がり、みんなで喜びあいました。 現在アマゾンのランキングの、医学入門部門、脳・認知症部門両方において、コウジさんが第1位だそうです。
  普通、家族はここまではなかなか語れない、というところまで描かれており、お読みになった当事者や家族の方は、きっと「そうそう!そうなのよね。やっぱりそうなんだ!」と共感された方が多いと思います。高次脳機能障害の症状の理解と言うだけでなく、「家族支援」を考える上でも、家族や当事者のみならず、医療・福祉関係者や支援者、行政の方々にもぜひ読んでいただきたいと思います。
  素晴らしいことに重版が決まったそうです。柴本さんは高次脳機能障害について理解を増やしていくために、現在主婦の友社ホームページのコミックエッセイに参加しています。今後コウジさんのことだけでなく、いろいろな症状についても描いていければと話していらっしゃいます。脳血管障害と外傷や低酸素脳症、中高年と若者、学齢期の子ども、男性と女性、受傷原因や部位のみならず立場で困難なことはさまざまです。家族の会としても、ブロック会や相談などで集められている症状や困ったこと、解決策などの事例をうまく発表できればいいなぁと思っています。

柴本さんのブログ:http://blog.shufunotomo.co.jp/hibikoujichu/

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子