こーじ通信
こーじ通信 No.61~No.65(こーじ通信のご案内)
No.65 その一言
「まぁこんなもんでしょう」これは主人が救急車で搬送され、開頭手術をした後、「この2週間が山です」と言われていた時に、医師から言われた言葉です。何が起きたのかもよく判らないまま手術を行い、その間なんとか命は助かって欲しいと祈っていました。それが終わっても意識が戻らず不安になって「この先どうなるか」と医師に聞いたのに・・・。「先生は沢山の数の患者さんを診てきたから、こんなものって言えるのかもしれないけれど、私たちは初めてなんですよ!」と声を大きくして言いたかった。今でもあの時の悔しさ、悲しさが甦ります。そんな経験をした方は沢山いらっしゃいます。
「最初の手術をしたときに、先生からこの先は一生植物状態だと言われた。そのときの言葉が焼きついていて、少しずつ良くなると言われても、なかなか信じることが出来ないんです。」と訴えた方がいらっしゃいます。傍目から見ると、ずいぶん回復したと思うのに、奥さんがなかなかそれを認められないのです。回復すると言っても元の主人ではない、ずっと寝たきりと言われたのだから、希望がない、と言うのです。よほど最初の先生の言葉がショックだったのでしょう。
もっとひどいことを言われた方もいらっしゃいます。この先どのくらい回復するのかを医師に尋ねたところ「命が助かっただけ良かったじゃないですか。これ以上何を望むのですか!」ある日突然、事故や病で生死をさまよい、なんとか命が助かった時に、こんな言葉を突きつけられたら、どんなにショックでしょう。みなさん、口々に「医師はもっと病院を出てからの変化について学んでほしい。リハビリでどのように変っていくかを見てほしい。家族の気持ちも考えてほしい」と言います。当会顧問の長谷川先生は「これからだんだん医療現場は変って行きます。研修医達は、在宅医療を学ぶ為に僕たちに同行して研修をしていますから」と話してくれました。
前述の方はさらにこんなことを言います。「長谷川先生が訪問してくれた時は、気持ちも明るくなって、なんとか乗り切れるような気がするんです。2週間に1回でなく、週に2、3回来て頂きたい気持ちです」と。長谷川先生の当事者や家族に寄り添う姿勢を、みなさん敏感に感じているのです。
私たちは病院や医師たちが頼りです。だから期待を抱かせすぎては、と思われるのでしょう。どこまで回復するなんて言えない、それも判ります。しかしもう少し退院後の実態を知り、家族や当事者の気持ちを考えてその「ひと言」を発していただきたいのです。そして家族をどん底に突き落とすような否定的な言葉に、家族は長い間苦しめられていることを知っていただきたいのです。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子
No.64 「障害は個性のうち」という考え方
『よくわかる、こどもの高次脳機能障害』(栗原まな先生著 クリエイツかもがわ出版)というイラスト入りで子どもにも判りやすい新刊本が出ました。小児の高次脳機能障害にスポットが当たってきた今、タイムリーな本です。この中に「1歳3カ月の時50センチの高さからコンクリートの上に頭から落ちた。受診したが、意識障害はなかった。」という事例がありました。この子は「自分で悪いとわかっていても乱暴してしまう、注意されると内にこもる、パニックを起こす、勉強が難しい、落ち着かないなど」の主な症状があるとのこと。これを読んで愕然としました。わが子だっていろいろな怪我をしています。息子は小さい時ブランコから後ろにひっくり返って落ち、起き上った時に、前から戻ってきたブランコでまた額を打ち・・・娘は階段から転げ落ちています。私もバイクでバスにぶつかって、吹っ飛んでいます。みんな誰でも、何かしら思い当たるような怪我や事故はあるのではないでしょうか?大きな障害が出なかったのは運が良かった?気がつかないだけ?
オーストラリア、クィーンズランド脳損傷協会シナプスの講演会が横浜でありました。その中で、「日本人の12人に1人は、神経学的疾病をもっている」という発表がありました。これには会場からも質問がありましたが、ABI(後天性脳損傷)は複数の障害を持っており、脳卒中、認知症、脳炎なども含んで、いろいろなデータを基にして算出したとのこと。
2007年にやはりクィーンズランド脳損傷協会のディッキンソン氏の講演会(TKK主催)の時に、最初「刑務所から脳損傷者を救う」という話が出、その頃の私たちには、あまりにかけ離れた話に思えていました。高次脳機能障害ゆえに犯罪を犯す、巻き込まれる。結構あるかと思います。
でも前述のようなことを考えると、高次脳機能障害と診断されなくても、多くの人が多かれ少なかれ脳に何らかの損傷はしているのではないかという考えが出てきます。生まれて死ぬまでの間に、「無傷の脳」なんてないのではないでしょうか?落ち着きのない人、キレやすい人、覚えの悪い人・・・自分も含めて、いるいる!と思ってしまうのです。これはもう「個性のうち」などと思えてきます。
高次脳機能障害で苦しまれている方々にこんなことを言ってしまうのは、失礼なことと承知しての話です。社会がそういう考え(誰もが多少なりとも損傷している)になってきたら、理解や支援が変わってくるのでは?もちろん専門の医療やリハ、支援があった上で、「障害も個性」という考えのもと、社会が「おたがいさま」と理解し合い、支え合えたら、などと考えているこの頃です。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子
No.63 シルバーリボン運動について
先日家族の方からメールを頂きました。「こちらの家族会の中で、奥様を介護しているご主人が買い物先で暴れる奥さんを宥めようとしていて、見ていた周囲から通報され警察に連行されるという事件が起きました!こういう事例は当事者を抱える家族としては珍しくない事だと思います。が、”見えない障害”、”かくれた障害”の当事者だと解れば防げるのではないでしょうか。」と1月9日の毎日新聞の記事を添付してきてくれました。
「内部障害マーク」の記事でした。そして彼女は「こちらでは「高次脳機能障害者」の為の同じ様なバッチ・シールが作れないものだろうかと話に出ました。東京の方からご協力して頂けないか。」という内容でした。
偶然、今井が出席した高次脳機能障害者ガイドヘルパーフォローアップ研修(世田谷区)でも、「マタニティマーク」のようなものが作れれば、当事者が理解されて支援が広がるのではないか、という話が出ました。いずれも内臓障害や妊娠初期など、外観からは判らないため、自宅で、電車の中で、学校で、職場で、スーパーで、などあらゆる所で「辛い、しんどい」と声に出せず我慢している人がいることを、 一般社会に視覚的に示し、理解の第一歩とするために生まれたマークです。
そういえば以前似たものを見たぞ!と思いだし、引き出しの中から
「シルバーリボン」を見つけました。シルバーリボンは、脳や心に起因する疾患(障害)、心の病への理解を促進することを目的とした運動のシンボルで、1993年に米国カリフォルニア州で生まれました。日韓ワールドカップが開催された2002年には、シルバーリボン運動に大きな転機が訪れ、同年誕生した日本事務局を筆頭に、後にメキシコやシンガポールなど世界各国に拡がって行ったそうです。シルバーリボン運動で支援の対象となる人たちは、精神疾患、神経症、発達障害、知的障害、高次脳機能障害、脳血管障害、認知症、神経難病を抱える人で、シルバーリボン運動は、福祉的要素、医療的要素、人権活動的要素を併せ持ったリボンキャンペーンとされているそうです。
障害であることを表示することに抵抗のある方も多くいらっしゃるかもしれませんが、ときどき配慮してほしくなる方は当事者用バッジをつけたい!という方もいるかもしれません。こういうことで高次脳機能障害の理解が広がるのであれば、家族会としても広げる活動をすることも考えたいと思いました。みなさんのご意見をお聞かせください。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子
No.62 家族会の動きと求められているもの
先日、品川・太田・目黒の家族会の共催で講演会が開催されました。「NHK福祉ネットワーク 日本リハビリ応援団 」 で落合恵子さんと司会をされている稲川利光先生 (NTT東日本関東病院リハビリテーション医) が講演されました。3区共催は2回目です。品川には高次脳機能障害の支援体制が無い!と渡邉泉江さんが頑張って品川支部を立ち上げましたが、近隣の区とも連携しながら活動を進めています。大田区は当会の大田支部とフォーラム大田高次脳機能があります。目黒も昨年家族会が立ちあがりました。情報も支援も区を超えて広がりを見せています。
当会はTKK(NPO法人東京高次脳機能障害協議会)に加盟しているお話は何度もしてきています。TKKが発足した当初は6団体でしたが、その後当会も加盟、現在では17団体になりました。
国のモデル事業、支援普及事業が進み、家族会もあちこちに作られるようになってきました。その家族会が各々に、自治体と協働したり要望を届けるのには、自治体も対応が難しいのです。それを実感したのが、TKKがNPO法人になった時です。東京都との連携がスムーズになったのです。任意団体ではできなかったことです。TKKも、それぞれ成り立ちも目的も違う各会の状況を、高次脳機能障害ということで全体的にまとめて活動しています。その中では新たに知ることなども多く、視野が広がります。当会は活動の上で、TKKは上部団体と位置付けています。国や東京都への要望書はTKKでまとめて提出しています。
これと同じようなことが各自治体で求められるようになってきています。大田区では2つある家族会が、フォーラム大田高次脳機能として活動しています。今まで行政主導で先駆的に進められている区でも、支部ではなく区の家族会が必要と、いくつかある家族会を1つにまとめ、その自治体の家族会という団体を作っています。支援普及事業を進めていく上で、家族会との連携が必要であり、このようなことはこれからあちこちに起きてくるだろうと思います。
家族会の運営は、この状況の中で変化せざるを得ないと思います。当会でも、国や東京都への要望書はTKKで、各自治体へは支部で、と使い分けています。また会の活動は、家族支援を中心に考えています。相談事業においては、当会で対処できない内容はTKKの加盟団体の中で得意とする団体にお願いするなど、連携することが出来ています。交流会を定期的に開催している支部もあり、懇親会や交流会の充実、家族に還元できることをさらに進めることが必要かと思います。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子
No.61 障害者制度改革の動向について
障害者施策の大改革が、一昨年の秋、管内閣成立とともに始まり、現在進行しています。NPO法人日本脳外傷友の会理事長および日本障害者協議会副代表の東川悦子さんも総合福祉部会55名の委員の一人として選出され、昨年4月から18回もの部会で討論を重ねられました。8月30日には、「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」が提出されました。それに先立ち、東川さんから部会の動向についてのメールが届きました。障害者制度改革がどのように進められているかが良くわかる文章ですので、東川さんにご了解を得て後段に掲載いたしました。
政府が障害者制度改革に着手したのは、「障害者権利条約」の批准のための法整備が必要だったからです。障害者権利条約は2008年5月3日、加盟国の内20カ国で批准され、発効しました。日本政府は2007年9月同条約に署名しましたが、未だ批准していません。批准すると条約は憲法より下位ではありますが、法律より優位とされているため、条約に抵触する法律は無効になってしまいます。そこで、条約の批准には既存の国内法の追加・改正など国内法の整備が必要なわけです。
「障がい者制度改革推進本部」は2009年(平成21年)12月8日、閣議決定により設置されました。当面5年間を障害者制度改革の集中期間とし、改革推進に関する総合調整を行っています。「推進本部」の下に「障がい者制度改革推進会議」さらに「総合福祉部会」「差別禁止部会」が設置され、「障害者総合福祉法」(仮称)「障害者差別禁止法」(仮称)の制定を目指しています。
8月30日に提出された提言には、障害者権利条約第19条で定められている障害者が「地域社会で生活する平等の権利」を具現化するための充実した制度設計や、障害者が憲法上保障されている基本的人権を他の国民と同様に享受することができるための制度設計など、我が国における今後の障害者施策の在り方について、重要な意味を持つ内容が盛り込まれています。
TKKは9月13日、厚生労働省の担当官に、「つなぎ法案と新しい総合福祉法についてのヒアリング」を行いました。「つなぎ法案」とは、「障害総合福祉法」(仮称)が出来るまでの間における障害者等の地域生活支援のための法改正のことです。「利用者負担の見直し」「障害者範囲の見直し」「相談支援の充実」「障害児支援の充実」「地域における充実した生活のための支援の充実」が来年4月1日施行を目指して、整備していくとの話でした。法律が出来たからと言って、すぐに支援が良くなるわけでもありません。障害者の憲法のようなものと思い、今後の動向に注意してみていきたいと思います。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子