こーじ通信

こーじ通信 No.66~No.70(こーじ通信のご案内)

No.70 失語症のある高次脳機能障害者の支援

  平成25年4月1日から国の高次脳機能障害支援普及事業は「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」に名称を変更しました。平成16年に高次脳機能障害診断基準が作成されましたが、その内容はご存知の通り「記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害」の4障害です。これは行政の定義で、医療の定義とは異なり、身体障害として元々支援をしてきたために失語症は除外されています。今回の「関連障害」というのは、中心となるのが「失語症」とのことです。
  6月25日に国立リハビリテーションセンターで、平成25年度第1回支援コーディネーター全国会議が開催されたので、オブザーバーとして参加しました。そこで取り上げられたのが「失語症」でした。相談に来る方の1/4が失語症という現状、高次脳機能障害の議論が始まる前から、失語症は障害者手帳が取得でき支援してきたはずだが、十分な制度利用が出来ていない実態があるために、今回テーマに取り上げられたそうです。「しかし診断基準が変わることはない。」と中島八十一センター学院長が断言されていました。「行政的定義」と「医療的定義」が違っていることで、当事者や家族の中にも混乱があることもありますが、「失語症」にスポットが当たって良かった!と思っています。
  失語症は早くから身体障害者手帳が取得できるようになっているが、取得されている方が少ないと4月の脳損傷者ケアリング・コミュニティ学会でも、全国失語症友の会連合会の実態調査が発表されていました。それによると、生活のしづらさは9割、すべてに関して家族の支援が必要、家庭内の役割が変わったが7割、そして情報不足のため手帳の取得は少ない、とのこと。また家族でも本人の思いの半分ぐらいしか理解できず、本人にとって重要な決断をするのも約8割が他の家族が行っていて、これは本人の人権の問題にもなると、今回講演された種村純氏(川崎医療福祉大学)は話されていました。また相手に失語症であることを伝えることがコミュニケーションの入り口であるのにそれが困難であること、コミュニケーションは、単なる情報伝達だけではなく、それ自体が人生の楽しみであること、コミュニケーションは相手がいる相互作用であり、周りがいかに対応するかが重要とのことなどなど。社会参加の厳しさ、当事者や家族の辛さ、さらなる周知の必要性を改めて考えさせられました。
  また失語症の障害等級は3、4級であることも、支援を十分に受けられない理由かと思います。財政が厳しくなってきて、福祉サービスの在り方が見直される中で、失語症に限らず、高次脳機能障害者が等級だけで切り捨てられることの無いよう、働きかけていきたいと思います。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.69 子供たちの高次脳機能障害

    2月21日は国立身体障害者リハビリテーションセンター主催の第2回支援コーディネーター全国会議、22日は第2回高次脳機能障害支援普及全国連絡協議会及び公開シンポジウムが開催されました。今井は21日しか参加できませんでしたが、ここで主に取り上げられたのが小児の高次脳機能障害でした。数年前から千葉リハビリテーションセンターでの研究と実践が報告されていますが、発達障害と高次脳機能障害の違い、その支援方法などが相談支援、教育現場で課題になってきています。
 折しも4月16日の東京新聞トップ記事に高次脳機能障害が取り上げられていました。中学生の時の木からの転落事故による脳幹出血、その後の高次脳機能障害で苦労されている穴沢さん親子たちは、15日に「日本脳外傷友の会」の東川さんと厚生労働省に「教師の理解が乏しい」「高次脳機能障害の研修を受ける機会を設けて」と訴えに行ったそうです。千葉リハの以前の報告でも、普通学級はもちろん特別支援校の先生方も、まだまだ高次脳機能障害について知らず、学校と密に連携を取って、周知そして復学や授業の進め方などの支援を行っているとのこと。「発育中の子どもの場合、問題となる言動が障害によるのか、性格によるのか区別しづらく、周囲が気付きにくい。引きこもりや学力低下、人間関係が築けないなど、二次的な影響がある。正しい理解と周囲の対応が大切」と橋本圭司先生のコメントも載せてあります。
 2005年4月に施行された発達障害者支援法により、発達障害についてはかなり支援(*)も普及してきているのでしょう。両障害の違いは、発達障害は原因を特定せず、幼少期に発症し、症状重視であるのに対し、高次脳機能障害は診断基準で規定されている通り、病気や事故などによる発症原因があることです。教員養成での教育、学校現場での理解を深めるための研修など、積極的に進めていってほしいと思います。また普段の子どもたちの教育の中にも、高次脳機能障害や他の障害、病気などについての学習を入れ、自然に受け入れ、対応できるようにして行ってほしいと常々思っています。
 なお高次脳機能障害支援普及事業は、25年度からは名称を変え、「高次脳機能障害及びその関連障害に対する支援普及事業」としてこれまで同様実施されます。高次脳機能障害は診断基準の4症状のみだけでなく、失語症など他の合併障害も各支援拠点機関において対応している現状であるので、ということです。身体障害者手帳が取れると診断基準からはずされていた失語症ですが、実際の取得者は少ないそうです。支援を受けやすくなることを期待します。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.68 家庭の変化と子どもたち

   家族はみなさん体験してきたことです。「青天のへきれき」などと良く言われますが、ある日突然、家族が倒れるのです。事故や病気、原因はさまざまですが、何が起きたか良く判らないまま、無我夢中で過ごした方がほとんどだろうと思います。命あることを祈って、やっと助かったら、今度は身体の障害や高次脳機能障害との闘い。少しずつ改善されると言われても、その長い道のりには、当然のことながら家族の生活があります。そんな中で家庭のあり方は、変化せざるをえません。成人になって子育てがやっと一区切りついたと思ったら、障害者になった我が子をまた介護しなければならない親。ご主人が倒れて、経済的にも子育てもすべてを背負わなければならなくなった妻。奥さんが倒れて、仕事に子育て、さらに家事、慣れない生活に疲弊する夫。「家族への支援」、これはずいぶん前から言われてきています。充分とは言えないまでも、家族会をはじめ、いろいろな所で支援の手が差し伸べられてきています。
 ところが家庭の変化はもっと深刻なこともあります。子どもたちへの影響です。以前にも書いたことがありますが、兄弟姉妹の中で何が起きているのか。親が倒れた時の子どもへの影響は?今まで、なかなかそこまで支援の手は届いていなかったように思います。「お母さんは良いわよ。家族会で話すことができるんだから」という娘さんの言葉を聞くと、友達にもカミングアウト出来ない悩み、親がいなくなった後、自分が背負わなければならないものへの不安に胸が痛くなります。また成長期に大黒柱が倒れてしまって、必死に生活を支える母親を見て、父親への愛情が湧かなくなってしまった子どももいます。成長過程での生活の変化が、子どもたちにもたらすもの、その大きさを考えると、このことをもっとしっかり考えていかなければ、と強く思うのです。ここ2,3年、その思いを温めてきましたが(というよりなかなか企画できなかったのですが)、3月の交流会では、そういう子どもたちの思いを考えたいと思います。「いっそあの時って思ってしまう私は悪い妻ですよね」と泣いた妻たちと同様、そんなことすら口に出すことができなかった子どもたちの本音を聞かせてもらおうと思います。そこから、どんな支援が必要なのか、一歩踏み込んだサポートを考えてみたいと思っています。お時間が許す方は是非ご参加ください。また参加できないけれど、私はこう思う、というご意見をお寄せ下さい。書面参加という形で、いろいろな方のご意見をみんなで考えていきたいと思っています。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.67 10年ひと昔

    「NPOになってもう5年経ったのか・・・」という思いを抱きながらの東京高次脳機能障害協議会(TKK)発足10周年・NPO法人設立5周年記念事業でした。
10月20日(土)の午後、「高次脳機能障害者のための自立と安心をめざしてin東京」と題した講演会やシンポジウムに、会場の戸山サンライズは200名を超す参加者で熱気を帯びていました。
10年ひと昔、と言いますが、高次脳機能障害における活動や支援はこの10年で大きく変わってきたと思います。今回の記念行事を見ても、前半は当事者たちの発表でした。高次脳機能障害の研究者であり、ご自身も脳梗塞になられた関啓子先生の発表は、以前岡山でご一緒した時よりはるかに磨きがかかり、専門家の目を通しての「患者としての発見」の分析は大変貴重なものです。関先生の講演が聞きたくて、と参加されていた方も多くいらっしゃいました。日本フィルハーモニー交響楽団ヴィオラ奏者だった小俣由佳さんの演奏も見事でした。9年前脳出血を発症され、しばらくして「ヴィオラを出して」と言われた時は、「何とかごまかして渡さなかった」と語るお母さんは、由佳さんを優しいまなざしで見ておられました。ハイリハ東京の小宮紀子さん、支援を続けるSTの西脇恵子先生の対談も絶妙で、笑いが絶えませんでした。
こんな当事者たちの発表風景が見られることは10年前には考えられませんでした。当事者が自分の状況を、それも新たな生き方に誇りを持って堂々と発表される、圧倒されました。小宮さんは「自分の中にある障害ということはしっくりこなくなった。排除したり、立ち向かうものではなく、ありのままで良い。私はこのままの私で良い」と語られました。バイク事故から15年、こういう生き方になってくるまでは、大変な苦労をされてきたのだろうと思います。記憶のためにつけ続けたノートは68冊も溜まったとのこと。西脇さんが一番驚いたことは「最近化粧をし、アクセサリーをつけ、髪の乱れを直し、とてもきれいになった!見た目から本当に変わった」ということだそうです。
 当事者はみなさん多くの困難を乗り越え、こうしてまた新たな人生を歩んでいます。その姿に感動、敬意すら覚えます。私たちもうかうかした生き方はできないぞ、とわが身を振り返らせてくれます。
TKKは発足10年ですが、当会は来年15周年を迎えます。10周年に作成した『こーじ便利帳』は今でも注文があり、それなりの役目をはたしています。さて歩んできた15年を振り返りながら、来年の15周年のことを考えることにしますか。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.66 予算要望書

   この夏は一段と暑い夏でしたが皆さま元気で乗り越えられたでしょうか?脱水症にならないように水分補給に気をつけ、熱中症にならないよう外出は控えて、と大変だったと思います。そんな夏でしたが、この時期は「予算要望書」を作成し、提出する時期でもあります。私たちの生活を変えるためには、まず理解を得、その支援のために予算をつけてもらわなければ始まりません。黙っていてもお上が、なんていうことは無いのです。いかに現状を訴え、予算をつけてもらえるよう要望するか、勝負の時なのです。
  巻末の活動報告をご覧になるとお分かりになるかと思いますが、当会も支部活動が盛んになってきています。またそれぞれの記事にもあるように、あちこちで家族会が立ち上がってきています。当会が加盟しているNPO法人 東京高次脳機能障害協議会(TKK)も加盟団体が23団体にもなりました。みんながあちこちで立ち上がって活動を広げている勢いが伝わってきています。
  当会は発足当初から先代の故鈴木代表を中心に「要望書」を東京都や国に提出し、「高次脳機能障害者はこれから益々増え、その支援をしっかりと構築しないと社会問題になる」と発言して来ましたが、まさにそのとおりになってきました。救命救急が発達し、高次脳機能障害ということが次第に周知されるようになってきて、高次脳機能障害者は増え続けています。入院期間の短縮もあり、急性期から回復期の病院でのリハビリテーションや退院後の生活期(維持期)における支援体制はまだまだ足りません。
  またご存知のとおり、高次脳機能障害と一口に言っても症状はさまざまで、生活のしづらさは多岐に渡り、要望項目も多くなります。日ごろ皆さまからお聞きする不安や辛さ、怒りや疲労感などを、どう要望したらよいのだろうか、どこまで要望書に書き込むか、毎年苦悩するところです。今年はTKKとしては9項目に絞り込みました。支援拠点、高次脳機能障害者の移動支援、就労支援、運転免許の問題、地域資源の基盤整備、地域格差の是正、防災の問題、重度者の施策、小児の問題。どれも重く、早急に解決しなければならない問題ばかりです。
これから議会が始まります。そこで来年度予算が審議されます。ご自分の地域でも要望書を出しませんか?まだ予算要望書を提出するのは間に合います。地域格差を嘆いてばかりいても仕方がありません。とにかく口に出して現状を訴えること、そしてあきらめず言い続けること。継続は力なり!を信じて。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子