こーじ通信

こーじ通信 No.71~No.75(こーじ通信のご案内)

No.74 仕事がしたい

  主人が脳出血入院し、1ヶ月半でリハビリ病院に転院した日の面談の時です。まだボーッとしていて、ずり落ちてしまって車椅子にも満足に座れない時期に、主治医の長谷川先生から「何をしたいですか?」と尋ねられて、即座に「また仕事がしたいです!」と答えました。「ええっ!そんなこと言うんだ!」と驚きました。問いかけにも反応が悪く、目やにやよだれが流れ、まだ夢の世界に居るような状態だった主人が答えたのです。その時先生は「わかりました。まずは一人で座るところから始めましょう」と目の前の目標を話してくださいました。テレビ番組の音響効果の仕事をしていた主人は、病院の白い壁の廊下を見て「今日は何スタ(ジオ)に行けばいいんだっけ?」とトイレやリハビリに行くたびに聞きました。「ここは病院」と言いながら、主人にとっての仕事の意味を考えていました。
  地域でボランティア活動をしていたとき、町会などの集まりで自己紹介をすると、男性は「元○○会社の○○部長をしていた○○です」と必ずと言っていいほど、元いた会社の肩書きを語られました。女性はいたって簡単、「○丁目○○番地の○○です」で終わりです。その時は皮肉を込めて面白おかしく感じていたのですが、人間にとっての仕事、自分の存在などということを真剣に考えるようになってからは、笑えなくなりました。
  ヘルパーの仕事をしていて最近感じることは女性の高次脳機能障害者が増えてきていることです。今までは中高年の男性の脳血管障害が多かったのですが、低年齢化、そして女性が増えてきているように思います。多分、女性の社会進出で、男性と同じように働き始めているからかと関係者とも話しています。女性の場合は、男性と同様に働き、家庭があれば家事、育児も加わり、毎日の生活がかなりハードなものになっていると想像されます。男性が倒れたときとは状況が違い、特に主婦が倒れた場合の家庭は大変です。働き盛りの夫には仕事はもちろん、知らなかった介護、妻に任せていた家事、子育て等が急に我が身に降りかかってきます。夫が倒れた時の妻以上の困惑かもしれません。そんな状況でも、妻は「前のように働けなくなった、また働けるのかしら」と絶望や不安の中で語ります。
  人にとっての仕事とは?支援モデル事業が進んでいった時に「就労なんて、まだそこにも行けない人達がたくさんいるのに」と家族会でも話していたことがありましたが、新たな生活を築いていくためにも、「働く」という目標が大きな支えになることは確かです。家族が「働くなんて無理!」と決めてしまわず、「仕事がしたい!」という気持ちを正面から受け止めて行きたいと思います。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.73 高次脳機能障害者と運転

  今年も気が付けば2ヶ月が経とうとしています。毎日を忙しく過ごしていると、あっと言う間に時が過ぎていってしまいます。風邪やインフルエンザ、そして雪と寒さの厳しい冬、皆様お元気でおすごしでしょうか?
  年度末なのでしょう、多くの講習会や研修会などがあちこちで開催されています。高次脳機能障害関連の講習会も、随分内容が様変わりしてきています。先日今井が参加した研修は「高次脳機能障害者の運転と法制度について」というものでした。2011年4月の鹿沼市でのクレーン車の事故、2012年4月の祇園での事故がきっかけで、2013年6月14日交付で道路交通法が改正されました。「一定の病気等に関わる運転者対策」として2014年6月までに施行されるものです。①免許取得・更新時に、一定の病気等の症状に関する「質問票」の提出義務→虚偽記載は1年以下の懲役または30万円以下の罰金 ②診察した者が一定の病気等に該当すると認知した時→医師による任意の届出制度 ③一定の病気等に該当する疑いがあると認められる時*一定の要件を満たした場合に限る→免許の効力暫定停止制度 と道路交通法の一部が改正されます。しかし現状で公開されていない部分があります。①の質問票、様式を各学会の意見を聞き調整中です。②医師が用いる任意の届出に関するガイドラインを各学会に作成依頼しているところ。③一定の病気に関する実際の運用について、脳血管障害、頭部外傷などはどの程度で認知症扱いになるのか。この6月までには明らかになるというのですが・・・。
  さてこの研修で今井が一番驚いた話は別の所にあります。「男性のADL改善とQOLは関係しない」という話です。ADL(Activities of Daily Living)とは『日常生活動作』のこと、具体的には、食事や排泄、整容、移動、入浴等の基本的な行動です。QOL(Quality of Life)は、『生活の質』と訳され、人間らしく、満足して生活しているかを評価する概念です。障害を持つ男性がやりたいことと言うと多くは「仕事」「運転」となるそうです。「運転が出来れば!」と思う気持ちを受け止めて、この講師(OT)は高次脳機能障害者と運転という問題に取り組んでいるそうです。
  TKKの予算要望書の中でもこの運転の問題を取り上げています。①評価基準を設けてほしい②運転再開の訓練や試験などの適切な支援が欲しい、です。本人の主体性を引き出す、自己決定を支援する上で、この運転という問題は、警察庁の問題だからと切り捨てる(要望書の返答)のではなく、おそらくこれから真剣に取り組まなければならない問題になるだろうと思います。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.72 リスクを負っても社会参加するか

  今年の7月で、当会は15周年を迎えました。高次脳機能障害を知る、支援を訴える、というところからスタートした当会ですが、家族会も15年も経つと次なることを考えなければなりません。少し遅れましたが、10月6日に15周年記念講演を開催しました。テーマは「これからの生活に向けて~新たな一歩を考える~」としました。
  毎年予算要望書をTKK(東京高次脳機能障害協議会)を通して東京都に、各自治体にも世話人たちが提出しています。その中で必ずと言っていいほど「グループホームを作ってください」という内容が盛り込まれています。介護者亡き後が心配、グループホームがあれば、という考えです。そう言うみなさんの中でのグループホームのイメージは、一体どんなものなんだろう?グループホームがあれば心配や不安は解決するのだろうか?とずっと考えてきました。介護者亡き後も自立した生活をするにはどうしたらいいのだろうか?今回はこれをテーマに考えてみようと思いました。
  まずは高次脳機能障害者のグループホームを最初に立ち上げた豊橋の「笑い大鼓」、そして大阪府で平成24年度から4箇所でグループホーム事業を始めた一つ、堺市の「ホームおおみの65」を見学に行きました。また認知症対応型共同生活介護(介護保険施設)の「セントケアゆりがおか」にも行ってきました。さらに一人暮らしを支える活動や仕組みも見てきました。
  そして講演当日には豊橋にあるNPO法人 高次脳機能障害者支援「笑い太鼓」高次脳機能障害者支援センター施設長の加藤俊宏さんをお招きしました。後段で講演内容は詳細にお伝えしていますが、「住まう」ことに焦点を当て、グループホーム、一人暮らし準備室、一人暮らしの支援の実践をお話いただきました。自立して生きていくためには「衣食住」だけでなく「医衣食職住経相」が必要、医療と相談の支援はとても大事だとおっしゃいました。また後日「今回お話しできなかったが、リスクをどう考えるのかが重要かなと思っている。」とのお話を聞きました。「本人の一生を親が最も安心な状態にしておくことを望むとしたら、入所施設しかない。なぜなら社会との接点が増えれば増えるほど障害からくる問題が発生するから。リスクを負っても社会に出るか、問題を回避するために社会から隔絶するか。本人次第ではあるが、笑い太鼓は当事者の社会参加を支援することを目的に活動している以上、社会との接点を増やそうと考えている。最も大切なことは、如何に適応力をつけていくかに尽きるかなと思う。」と今回のテーマをさらに深めてくださいました。あなたはどう考えますか?


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子

No.71 「高次脳機能障害支援センター」

  東京都で平成22年度から高次脳機能障害支援モデル事業として二次保健医療圏の中の2圏域で始めた「専門的リハビリテーションの充実」事業は、支援普及事業として、昨年は4圏域、そして今年は6圏域にまで拡大しました。
  これまで12の二次保健医療圏を地域のリハビリテーション拠点と指定し、地域支援ネットワーク構築のために、関係機関の連絡会、症例検討会などを行ってきています。ただ高次脳機能障害に特化したものではありません。そこで始まったのが、区西南部の日産厚生会玉川病院と西多摩の大久野病院でのモデル事業です。
  二次保健医療圏における高次脳機能障害のリハビリの中核を担う医療機関にアドバイザーを設置し、支援機関からのリハビリ技術や個別支援の相談に応じています。また医療従事者等を対象とした研修や症例検討会、圏域連絡会などを行い、高次脳機能障害の特性に対応した専門的リハビリテーションを提供できる体制を構築しています。さらにポスターやリーフレットの作成も実施。つまり高次脳機能障害に特化し、それを支援して行く専門家たちのスキルアップと連携を行っているのです。
  昨年度は区東部の東京都リハビリテーション病院、北多摩南部の東京慈恵会医科大学付属第三病院、今年度からは区南部の荏原病院、南多摩の永世病院が加わりました。この事業の受託機関が6圏域に広がったということは、12のブロックに分けた二次保健医療圏の半分がその拠点になったということです。各圏域とも事業実施以降、年を追うごとに相談件数が増加しているとのこと。東京都では順次、他の6圏域にも広げて行けたら、と話していました。
  当会としては、支援してくださる方々のすそ野が広がり、連携を取って支えて下さる仕組みが構築されることは、とても心強く思います。ただ委託予算が4年目からは減っていくとの報告を受けているので、この事業がいつまで続くのか、その先が懸念されます。TKK(当会が加盟している東京高次脳機能協議会)としては、この事業拠点を中心に「高次脳機能障害支援センター」の設立することを予算要望書に入れ、提出しました。せっかく培ったノウハウとネットワークの構築をそのままにしておくのはもったいないと思うのです。広い東京です。12か所に「高次脳機能障害支援センター」が出来れば、どんなに良いでしょうか。あと6圏域の広がりを期待するとともに、ご自分の地域に「高次脳機能障害支援センター」を作るよう、それぞれの自治体に要望書を出しませんか。


高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子