こーじ通信

No.87 「心が動けば、体が動く」
2016年11月

 久しぶりにこの言葉を聞きました。11月19日に世田谷高次脳機能障害連絡協議会主催で行った失語症ドキュメンタリー映画「言葉のきずな」上映会のアフタートークで、田村周監督が口にしました。自主製作映画を撮るきっかけがこの言葉だったとのこと。半信半疑で、長野県で活動する言葉の障害(失語症や構音障害)を負った人たちの劇団「ぐるっと一座」の活動を取材したそうです。

 私が最初にこの言葉を聞いたのは、当会顧問の長谷川幹先生から「主体性を引き出す」ことの重要性を教えられた時だったと思います。「やってもらう」から「やりたい」と思うことが、回復に踏み出す一歩であることを、私も何度も見てきています。

 主人の場合、転院した病院での主治医が長谷川先生でした。最初に聞かれたのが「何をしたいですか?」でした。まだボーっとしていたのに、「仕事をしたいです。」と答え、さらに先生は「そうですか、ではまずちゃんと座れるようになりましょう。」とやさしく語りかけたのです。とてもその段階では考えられない「仕事をしたい」という希望に、一歩ずつ近づいていくためのハードルを示してくださったのです。そして「できた!」という体験が自信をつけ、さらにその次のハードルを越えようとしていく力が生まれてくるのです。

 家族は、とかくその人の持っている能力で何とかできることを、それも早くやらせたいと思ってしまいます。でもそれは、本人が自分で決めて行動を起こさないとならないのです。本人の気持ちを否定したり、評価しないで、また自分の願望を押し付けることなく、本人のやりたいことを引き出すことはなかなか難しいことです。私も主人には、かなり高いハードルを突き付けていたことに、今更ながら気づきます。仕事柄、同僚のヘルパーたちには「支援者の自己満足はダメ。」と伝えているのですが。

 一人暮らしで自立しようとしていた方に「家族には感謝しています。でも家族って難しいですよね。」と言われたことがあります。世話になっている家族に、なかなか自分の気持ちを伝えられないと、彼は顔をゆがめて訴えてきました。家族は一生懸命なのだろうけれど、本人が本当のところどうしたいのか、ということを常に受け止め、理解していなければならないのだろうと思います。それは結構、家族には難しいことなのかもしれません。
 女子高校生とマクドナルドに行きたいと、経管栄養のための鼻からのチューブを抜き、経口摂取に切り替えた方もいます。「心を動かす」ことは、思わぬところにあるのかもしれません。

高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子


こーじ通信目次へ