作業療法士で当会の世話人でもある仲間が関わったケースの話です。交通事故で高次脳機能障害となり、万引きを繰り返すようになった女性(38)に、東京地裁は4月20日、懲役1年6か月(求刑2年6か月)の判決を言い渡しました。この女性は12年前にバイク事故で足の障害と共に、記憶障害等の「高次脳機能障害」の診断を受けていました。事故後から万引きを繰り返すようになり、4度起訴されました。
「累犯」という言葉をご存知でしょうか?「再犯」は二度目の犯罪を言い、三度目以降を「累犯」と言います。なぜ繰り返してしまうのか?支援してきた作業療法士は「彼女は過去の万引き行為のこともほとんど覚えていない。」と言います。何回刑務所に入ったか、刑務所で何をしていたかも覚えていないそうです。「服役が(更生)効果を果たしていないことは明らか。刑罰を科すだけでは問題解決にはならない。」と累犯障害者の問題を指摘します。さらに「適切な支援があれば、万引きは防げる。」と言い、弁護士も「万引きをしなくて済む環境整備の必要がある。」と述べています。
折しも「罪に問われた障がい者」の支援―新たな制度展開と多様な草の根の取り組みー」というシンポジウムが7月1日にあり、行ってきました。
主催の『共生社会を創る愛の基金』(「郵便不正冤罪事件」の元厚生労働事務次官の村木厚子さんが、国家賠償請求で得たお金で立ち上げた基金)による活動は、着実に国を動かしています。法務省の実態調査に驚きます。刑法犯検挙者数は平成16年をピークに減少していますが、再犯者数は増加しており、半数に及びます。四分の一が知的障害者。認知症の高齢者も増加しています。法務省、厚生労働省の5部署の役人たちの報告もありました。昨年12月に「再犯防止推進法」が成立・施行され、犯罪対策閣僚会議「再犯防止対策推進会議」を設置し、今年12月までには再犯防止推進計画の策定を予定しています。再犯の時に無職の者が70%、保釈時に帰住先がない者が56%という現実に、これまで出所した後を支援する「出口支援」をしてきましたが、刑務所等の矯正施設に入れない支援をするいわゆる「入口支援」の重要性・必要性が重要視されるようになってきています。矯正施設に収容するのではなく、適切な福祉的支援の下、社会において障害特性に応じた処遇をしていく方が,はるかに効果的で重要なのです。そのためには地域の社会資源と連携して、切れ目のない息の長い支援の実施が必要、と話していました。
累犯障害者の高次脳機能障害者が占める割合は不明ですが、上記の懲役刑を受けた女性も、障害特性が理解され、社会復帰支援を受け、再び「累犯障害者」になることなく、地域で暮らしていけるようにと祈ります。
高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子