こーじ通信

No.93 親亡き後の問題と子どもの自立
2018年4月

 家族会でいつも話題になるのが「親亡き後の問題」です。年齢の差こそあれ、子どもが高次脳機能障害になって「また子育てが始まったような気がする」「私が元気なうちは元の生活に近づけるよう頑張る」などなど、親御さんならではの思いで頑張られています。しかし自分が年を取るにつれ、「私がいなくなったらこの子はどうするのか?」「どんな生活になるのだろう?」と不安でいっぱいになります。そして「親亡き後では遅いのよね、親が元気なうちに何とかしなければ」と先に進もうとされる方たちもいらっしゃいます。
 支援を得ながら親元を離れ、一人暮らしを始める、というのも一つの道です。親子ともども覚悟がいることですが、思い切って踏み出すことについては拍手を送りたいと思います。しかし実際に生活を始めてみると、高次脳機能障害ゆえにいろいろな問題が起きます。計画を立てて生活できない、記憶障害なのでいろいろなことが忘れられ、書類の提出や財産管理が難しいこと、さらに忘れ物や紛失、食事が十分に摂れていない、体調不良について自覚がなく、かなり悪くしてから周りが気付く、などなど数えたらきりがありません。それまでは親御さんが先々を読み、言い方は悪いですが、手出し口出しをして通り抜けてきたのです。さて一人になったらどうする?その時の対応が問われるようになります。
 困って支援者にSOSを出せればいいのですが、すぐに親に電話やメールをして助けを求める方、何とかなるだろうとそのまま過ごしてしまう方、いろいろです。道に迷ってSOSメールが来ても、遠く離れたところから土地勘がない場所の遠隔操作は出来ません。それでも何とかしてあげようと、親が動いてしまうケース。行事参加などで仕事を休まなければならない時に、親が先に仕事先に連絡を取ってしまうケース。紛失物を子どもに取りに行かせず、親が取りに行ってしまうケース。挙句の果てに、一人暮らしはリハビリにならないと、せっかく自立生活に慣れてきたのに親元に連れ戻してしまうケース。結局当事者である子どもたちに混乱を起こさせ、自分の生活を自分で何とかしていく、という力を育てられないことになってしまいます。「親亡き後」を心配しているのに、背後霊のように付きまとってしまう親御さんたちの気持ちは分からなくはないのですが、真に自立させたいと思うのであれば、どうしたらいいのか、真剣に考える必要があると思います。「親のいるうちに自立した生活を」と言うは易く、実行はなかなか難しいのが現実です。

                    高次脳機能障害者と家族の会 代表 今井雅子


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